【佐藤優のインテリジェンス人生相談】 “外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える！ ◆キャリー（ペンネーム）派遣社員　31歳　女性 先日、一緒に合コンに参加した友達のAちゃんに、すごい気の合う男の人がいました。そのAちゃんは私と中学、高校と一緒でずっと仲が良かったのですが、2年前に当時付き合っていた彼氏に暴力を振るわれ、半ば男性不信になっていました。今回、Aちゃんが合コンで会った男の人は私と職場が一緒の人で、真面目な好青年です。ただ、その男の人はAちゃんよりも6つ年下で、その年の差にちょっと気おくれ気味です。なんとか、Aちゃんには幸せになってほしいと思ってます。ものすごいおせっかいなのはわかっているのですが、Aちゃんとその男性をうまくくっつける方法はないでしょうか？　佐藤さんはハニートラップやスパイ事情に詳しいとお聞きしましたので、もし何かいい方法がありましたら教えてください。 ◆佐藤優の回答 　男性のほうが6つ年下でも、付き合ううえでの障害にはなりません。友達の紹介で、よい恋人ができるということもあるので、あなたが本心からこの人を付き合わせたいと思うのならば、そういう場をつくればよいと思います。こういうときは、インテリジェンスの陰険な手法や、ましてハニートラップのような罠を仕掛けるのはよくありません。2人に誠実に接することが重要です。3人で食事に行って、そのときに「あなたたち付き合ってみたらどう」と率直に交際を勧めてみるのがいいと思います。もっとも、それでうまくいく確率は3割くらいだと思います。どうしてかというと、人間は複雑な動物で、理屈ではうまくいくように思えてもそうならないことが多いからです。 　キャリーさんは、「複雑系」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。少し難しい定義になりますが、複雑系とは、〈無数の構成要素から成る一まとまりの集団で、各要素が他の要素とたえず相互作用を行っている結果、全体として見れば部分の動きの総和以上の何らかの独自のふるまいを示すもの〉（吉永良正著『「複雑系」とは何か』15頁）を指します。キャリーさんが、Aちゃんと職場の好青年に働きかけることによって、当初の予測とは異なる事態が出現する可能性も出てきます。吉永良正先生は、〈複雑系のすごさを感じさせるのは、何といっても生きものの世界だろう。生物は個体として見ても集団として見ても、その内部のさまざまなレベルで、つねに各種の相互作用を通して自らを維持している。しかも外部に対して開かれたシステムである。システムが閉じたとき、それは死を意味している。（中略）生物進化は予測もつかないし、地球上での生命の誕生から現在に至る一回かぎりの歴史を、整合的に説明し得る統一理論などといったものは存在しない。〉（前掲著31頁）と指摘します。 　あなたが、Aちゃんと職場の好青年を引き合わせても、2人が付き合うのではなく、事態は別の方向に発展していくのではないかという予感がします。もしかすると、自分があまり意識していないところで、キャリーさんがその好青年と付き合いたいと思っているのではないでしょうか。そういうときに、自分の気持ちに素直になれずに、好きな人を友達と付き合わせようとするという話はよくあります。夏目漱石の『それから』では、主人公の代助は、本当は美千代のことを愛していたのですが、友人の平岡と美千代が結婚するように働きかけます。しかし、後に美千代が代助を深く愛しているということを知り、苦しみます。Aちゃんに職場の好青年を紹介する前に、もう一度自分の気持ちについて、掘り下げて考えてみることを勧めます。キャリーさんの愛が少しでも職場の好青年に向いていると思ったならば、Aちゃんを好青年に紹介することをもう一度考え直したほうがいいと思います。 【今回の教訓】 人間は複雑。まず、自分の気持ちを整理しよう ◆募集 佐藤優さんへの相談を募集中。匿名希望の方はペンネームを記入してください。採用者には記念品をお送り致します。 ⇒応募はコチラから　https://nikkan-spa.jp/icol_form 【佐藤優】 ’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『読書の技法』『日本国家の神髄』など著書多数’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数