コミュニケーション・スキルを磨いてはいけない!? “童貞学校”で教えてくれること 【後編】
童貞のための“学校”があるのをご存じだろうか? もちろん、魔法学校ではない。「ヴァージン・アカデミア」は受講開始から12か月以内に、受講者自身の力と意志で信頼のできるパートナーを見つけ出し、「望まないヴァージン」の卒業を目指す通信講座で、受講資格は、20歳以上という年齢制限のみ。まさに、脱・童貞の学校なのだ。
カリキュラムは、「公式テキストの学習」と「活動レポートの提出」の2本柱で、公式テキストの学習を通して、ヴァージン卒業のために必要な知識と情報、心構えを学ぶ。公式テキストによる座学が終了したら、学んだことをベースに初体験の相手となるパートナー探しの活動へのチャレンジだ。
その活動内容と結果については、毎月1回、レポートを提出。提出したレポートについては、担当講師がコメントとアドバイスを添付してくれるとか。
この「ヴァージン・アカデミア」を立ち上げたのは、一般社団法人ホワイトハンズ。ホワイトハンズは重度身体障害者に対する射精介助など、「性の公共」をつくるというビジョンのもと、社会の性問題に取り組んでおり、この「ヴァージン・アカデミア」もその活動の一環だ。代表理事の坂爪真吾氏に話を聞いた。
⇒【前編】はコチラ
――成果を出せる人/出せない人の差はどこにあるのでしょうか?
これは、本人の容姿や年収、コミュニケーション・スキルといった外的な理由よりも、「恋愛やセックスへの動機づけそのものが弱い(ない)」ことに原因があると感じています。今の時代の男子を悩ませているのは、「生身の人とセックスをしたい」という動機自体が十分に湧き上がらないこと、そして、特定の相手に対して、「どうしても、この人とセックスがしたい」という情熱を抱けないことです。
あるのは、「しなければならない」という焦燥感や、「しないと、男としてダメな気がする」といった劣等感だけ。いずれも、童貞を批判的に捉える同性の眼差し、世間の眼差しを内面化することで生じた感情であり、そこに、本来いるべき相手の姿はありません。
「ヴァージン・アカデミア」受講生の男性も、皆、容姿やコミュニケーション・スキルなどの、恋愛をするための条件は、人並みか、それ以上に整っている場合が多いです。にもかかわらず、「したい」という動機自体が十分に湧かないため、あるいは、コストやリスクを負ってまでも「したい」と思える特定の相手がいないため、行動できない。日々の仕事の忙しさを言い訳にするだけで終わってしまう。
「したい」という動機付けのない状態、そして「したい」と思える相手が周りにいない状態で、「しなければならない」という焦燥感や劣等感だけに駆られて行動しても、なかなか結果は出ないんですよね。
――「動機づけがないのであれば、別に無理にしなくてもいいのでは?」という意見もあるのでは?
もちろん、セックスが、スポーツや趣味、娯楽のようなものであれば、「したい人だけが、すればいいよね」で、話は終わりです。
しかし、セックスは、単なる娯楽や趣味ではなく、次世代に命をつないでいくためのライフラインであり、僕たちが、社会の中で孤独にならずに生きていくため、他者との絆を作るための命綱でもあります。
童貞であること=セックスができないということは、「性欲が処理できなくてかわいそう」「いい年をして恥ずかしい」という次元の問題ではなく、「他人との絆が作れない」「未来の子どもたちとの絆がつくれない」ということを意味します。
個人的な欲望やプライドの問題ではなく、社会的な絆の問題です。「他者との絆を作れない(そもそも絆を作ることに意味を見いだせない、動機づけられない)」個人が量産されることは、本人にとっても、社会的にも、致命的な問題でしょう。
坂爪氏は、「人間が性的に『大人になる』のは、初めてセックスをした時でも、成人したときでも、結婚した時でもなく、相手の立場に立って物事を考えられるようになったとき」だと語る。
その意味では、数だけをひたすらに誇るヤリチンも童貞だ!? などといって溜飲を下げたところで、まったく意味はない。が、「自分はうまくやってきた」と思っているアナタも、“童貞”から卒業はできていない可能性はおおいにある。
坂爪氏の新刊『男子の貞操 僕らの性は、僕らが語る』には、「モテ/非モテ」「エロ」といった言葉で安易に片付けられてきた「男子の性」の問題とその解決策が、論理的に語られる。自分の“性”とのつき合い、そして人との関わりは、この先もずっと続く。今、改めて、自分の性について考えてみては?
●坂爪真吾(さかつめ・しんご)
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。新しい「性の公共」をつくる、という理念のもと、重度身体障害者に対する射精介助サービス、バリアフリーのヌードデッサン会の開催など、社会の性問題の解決に取り組む。著書に『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』『男子の貞操 僕らの性は、僕らが語る』。
<構成/鈴木靖子>
『男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る』 性問題でこじらせてしまう前に読みたい一冊 |
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