恋愛・結婚

コミュニケーション・スキルを磨いてはいけない!? “童貞学校”で教えてくれること

ヴァージン・アカデミアの特別講義

昨年11月に明治大学で行われたヴァージン・アカデミアの特別講義の様子。約100名の学生が集まった

童貞のための“学校”があるのをご存じだろうか? もちろん、魔法学校ではない。「ヴァージン・アカデミア」は受講開始から12か月以内に、受講者自身の力と意志で信頼のできるパートナーを見つけ出し、「望まないヴァージン」の卒業を目指す通信講座で、受講資格は、20歳以上という年齢制限のみ。まさに、脱・童貞の学校なのだ。 カリキュラムは、「公式テキストの学習」と「活動レポートの提出」の2本柱で、公式テキストの学習を通して、ヴァージン卒業のために必要な知識と情報、心構えを学ぶ。公式テキストによる座学が終了したら、学んだことをベースに初体験の相手となるパートナー探しの活動へのチャレンジだ。 その活動内容と結果については、毎月1回、レポートを提出。提出したレポートについては、担当講師がコメントとアドバイスを添付してくれるとか。 この「ヴァージン・アカデミア」を立ち上げたのは、一般社団法人ホワイトハンズ。ホワイトハンズは重度身体障害者に対する射精介助など、「性の公共」をつくるというビジョンのもと、社会の性問題に取り組んでおり、この「ヴァージン・アカデミア」もその活動の一環だ。代表理事の坂爪真吾氏に話を聞いた。 ――「ヴァージン・アカデミア」の設立の経緯を教えてください。
坂爪真吾氏

「今日までヴァージンであった理由はほとんど、『知識の不足』ではなく『行動の不足』」(坂爪真吾氏)

 初体験は、一見、最も個人的な体験に思えますが、実は最も社会的な体験です。初めて相手の前で裸になって肌を重ねる過程で、それまで、僕たちがどうにか取り繕ってきたこと、見て見ぬふりをしてきたこと……例えば、学校や家庭での性教育の欠如、男女間のコミュニケーション不全、デートDV、言葉の暴力、女性差別や支配欲求、ED、過去の性的虐待・性犯罪被害体験のフラッシュバックなど……が、自分と相手の裸と共に、すべて露わになってしまう、「メッキがはがれる」瞬間でもあります。  その意味で、初体験は、「社会問題のデパート」なわけです。しかし、初体験の成否や質が、真面目に論じられることは、ほとんどないですよね。学校での性教育は、避妊や性感染症予防の解説のみで、初体験を成功させるために必要とされる具体的な知識やスキルは、一切教えられません。その結果、初体験の失敗によって、自分と相手の身体や自尊心を傷つけてしまったり、セックスに対する興味・関心自体を失ってしまったり、その後に売買春や性風俗に走ってしまう人が後を絶たない状況です。  逆に言えば、初体験をきちんと適切な形でクリアできる人を増やすことができれば、その後の性に関する諸問題(性感染症、中絶、DV、売買春、不幸な離婚や不倫など)の発生率を相当数減らすことができる、と考えています。 ――坂爪さんの著書『男子の貞操 僕らの性は、僕らが語る』には、かつての日本には、明治以前の村落共同体であれば「夜這い(よばい)」、明治以降には「お見合い結婚」と、初体験をサポートするシステムがあった。そうしたシステムがなくなり、初体験も「自己責任」されているとのご指摘がありました。 若者の性行動が早期化・低年齢化・活発化したと言われますが、中学生の9割以上、高校生の約7割、大学生の約4割は、性交未経験者というデータもある。「自己責任」を押し付けられるならば、そのフィールドには乗りたくないという若者が増えたとしても納得です。  今の日本の社会には、「パートナーと円満な性的関係を築き、次世代に生きる命を産み育てる」という、人間として生きていく上で最も大切なことを教えるプログラムは、家庭にも学校にも、どこにも存在していないわけです。  つまり、若者の多くが知識も経験ゼロ=「無免許」の状態で、いきなり、自由恋愛市場という「速度制限なしの高速道路」に放り出されるのです。そういった状況下で、性生活のパートナーを見つけられなかったとしても、全ては自己責任。「あなた自身の容姿がダメだから」「コミュニケーション・スキルが低いから」と、強烈な自己否定感を味わう羽目になる。これでは、「怖くて運転できない」のは当たり前です。  ヴァージン・アカデミアの設立は、こうした不幸な状況を打破し、一人でも多くの若者の「異性との充実した性生活」の開始をサポートすることが目的でもあるのです。 ――ヴァージン・アカデミアのカリキュラムを拝見すると、「コミュニケーション・スキルを磨いてはいけない」との記述がありますね。異性との交際に限らず、「コミュニケーション・スキル」は、現代社会を生き抜くためのマストアイテムのように言われます。それをあえて、NGとする真意を教えてください。  ヴァージン卒業に当たっては、「まず、コミュニケーション・スキルを磨かなければならない」という思い込みが、最大の障壁になっています。  若者を取り巻くメディアの中でも、「コミュニケーション・スキルを磨け」の大合唱です。「コミュニケーション・スキル」という言葉を耳にするだけで、もうウンザリ、嫌な気分になる、「この世から消えてほしい言葉・第1位」だ、と感じているヴァージンの人も多いと思います。  ヴァージン・アカデミアでは、この「コミュニケーション・スキル信仰」を真っ向から否定します。コミュニケーション・スキルは、「事前に磨くもの」ではなく、「過程で学ぶもの」です。事前にコミュニケーション・スキルを磨く必要は全くありませんし、そもそも一人では磨くことはできません。完全に順番が逆なのです。  恋愛におけるコミュニケーション・スキルの中で、最も大切なのは、相手の話をきちんと「聞く力」です。アドリブで面白おかしい話をして、場をドッカーンと盛り上げる、テレビのお笑い芸人のような能力は、誰も望んでいません。そして、この「聞く力」は、相手への思いやり、相手目線があれば、誰でも、すぐに身につけることができます。 ――「相手目線」というのは、公式テキストの中でもよく出てくる単語ですね。  テキスト内に「ファッションは、絶対に自分では考えない」という項目がありますが、これは、ファッションがそもそも「相手のため」にする行為だからです。相手のための行為なのだから、自分ではなく、相手(と同じ性別・世代・価値観の人)に選んでもらいましょう、ということですね。  このように、公式テキストの学習を通して、ヴァージン卒業を、これまでのような「自分目線」ではなく、「相手目線」で、とらえ直します。  公式テキストには恋愛HOW TOテクニックは、基本的に掲載していません。こういったものは、「事前に覚える」ものではなく、「過程で学ぶ」ものであるからです。事前に、いくらこういったものを読んで勉強したところで、実体験や実践の場がなければ、身につきません。むしろ、そういった知識が、行動の邪魔になることすらあります。  ヴァージンの人が今日までヴァージンであった理由は、ほとんどの場合、「知識の不足」ではなく、「行動の不足」であったはず。必要なのは、「まず学んで、それから行動」ではなく、「まず行動して、それから学ぶ」ことです。 ――『ヴァージン・アカデミア』の卒業生の成果は?  受講生の大半が、受講期間中にめでたくパートナーを見つけてヴァージンを卒業できている……という成果をご報告できればいいのですが、現実は、なかなかうまくいかないです。  できる人は、受講後すぐに行動を開始して、パートナーを見つけ、わずか1~2か月であっという間に卒業、というケースもあるのですが、できない人は、1年間受講を続けても、結局一人も女性と出会えず、一度も会話すらできないまま終了、というケースもあります。せっかく受講したのに、一度もレポートを出さないままやめてしまう人もいます。 ⇒【後編】「成果を出せる人/出せない人の差はどこにあるのでしょうか?」に続く https://nikkan-spa.jp/650578 ●坂爪真吾(さかつめ・しんご) 1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。新しい「性の公共」をつくる、という理念のもと、重度身体障害者に対する射精介助サービス、バリアフリーのヌードデッサン会の開催など、社会の性問題の解決に取り組む。著書に『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』『男子の貞操 僕らの性は、僕らが語る』。 <構成/鈴木靖子>
男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る

性問題でこじらせてしまう前に読みたい一冊

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