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シャープ・亀山工場への途上にあるサービスエリアで殿様商売の本質に会う――大川弘一の「俺から目線」

 メルマガ配信サービス「まぐまぐ」創業者の大川弘一。ITビジネス黎明期から会社を運営。子会社の日本最短上場、元役員の訴訟問題など、ビジネスの酸いも甘いも知り尽くした男が、話題の企業を始め、世に氾濫する時事・経済ニュースの“本質”を独自の視点で解析する本連載だが、物語は次第に、ロードムービーの様相を呈してきて……。

大川弘一の「俺から目線」〈第3回 シャープ 中編〉

 みなさまこんにゃちわ、大川でございます。

 いつもご覧いただきありがとうございます。

 前回の記事はおかげさまで各ポータルサイトやニュースアプリにも記事が配信され、結果的に匿名な方々にdisられて、2秒ほど寝込んでしまいました。

 今はもうすっかり体調も回復し、海鮮丼くらいなら食べられるまでになりましたので、今回もがんばっていこうとおもいます。

 さて。

 世界史をひもとくように現代企業の盛衰を見つめるこのコーナー。
 今回のテーマは、前回につづき、シャープです。

※前回「シャープ転落を読み解く鍵は、倒産した第一家電にあり」(https://nikkan-spa.jp/882809)

 京都東インターから小雨の降る名神高速道路をトロトロ進み、目指すシャープ亀山工場は1時間ほどの場所にあります。

 途中、どうしても腹が空いたので食事でもしようと土山SAに寄ったところ、ガランとしたフードコートの券売機に大好きな生姜焼きのボタンを見つけました。

 SAには少し高めでまともっぽいメニューの並ぶレストランもありますが、私としてはSAの食事に「燃料補給」のような無骨さを求める癖があり、普段から投資をするときにも「割安感」という言葉を何よりも重視する性格も手伝って、今回も迷わず券売機の前に立ちました。

 するとどうでしょう。

 ここの券売機には、単なる生姜焼きではなく、「三元豚生姜焼き定食」というメニューがあるではないですか。大好きな生姜焼きが、少しだけお化粧され、しかも出自を誇っていま目の前に現れる。まるで「地味だった元カノ」が表参道でベビーカーを押している場面に出くわしてしまったような戸惑いに、少しだけ躊躇しつつも、より力強く、四角いボタンを押し込んだのでした。

 券売機から吐き出されたチケットを手に取り、検尿時よりも小さな紙コップに不味そうな煎茶を注いで待っていると、自分の番号が大きな声で叫ばれます。

 268番の方!!!

 そうです。私が268番です。

 大好きな生姜焼きは、洗練されてどんな味になっているのだろう。脂はのっているのだろうか、すっきりと弾力があるのだろうか、そもそも味は違うのか。

 私ははやる心を抑えつつ、ひきずるとうるさいイスから立ち上がり、ピコピコと再会の場へと歩いて行きました。

 ところが。

 三元豚という冠を施された生姜焼きは、写真よりも完全にスモーラーです。それはスモーラーどころの話ではなく、確実に将来的なライスマネジメントの困難さを予想させるほどの分量で、明らかに、米が、余ります。

 これはいけない。

 横に投げ置かれている漬物も業務用的な緑色のきゅうりのアレで、とても中継ぎから9回表までの大役を果たせそうなオーラがありません。

 立ちはだかる難問に窮した私は、仕方なく七味とマヨネーズを三元豚にふりかけて「肉の味を濃くすることでライス量とのバランスをとる」という作戦に出て、スゴスゴと席に戻りました。

 いただきます。

 そうつぶやいて肉を持ち上げた瞬間、第二の悲劇が私に襲いかかりました。

「も、もやし…」

 そうです。4切れほどの三元豚の下には、湯がいたモヤシが貧乳型に盛られており、結果的に豚肉のボリューム不足のビジュアルを粉飾する形で寝そべっていたのでした。そしてそのもやしたちも、自らの担った役割にいくばくかの後ろめたさを感じているらしく、シャキシャキとは程遠い、うなだれた姿で肉に隠されておりました。

 その比率、モヤシ49:肉51

 かろうじて、肉が過半です。

 世界中で食事をし、様々な冷遇を受けてきた私ですが、少なからずブランドを掲げたものにここまで愚弄されたのは初めてです。悔しさにまみれ、しっとりふりかけの要領でライスに乗せ、急いで掻き込んだらそれなりにおいしくて、余計悔しくなりました。

 私が食べたかったのは、間違いなく普通の生姜焼き定食です。

 おいしいごはんと、千切りキャベツと、ちゃんとした生姜焼きを、生姜汁とマヨネーズを絡めながら肉で千切りを包み込み、楽しみたかっただけなんです。

 これこそが私の単純な需要であり、ブランドとか小細工とか、売れるからいいか的なことなんかやめていただきたい。生姜焼きは明らかにコモディティ化の完了した記号と呼べる『定番』であり、そこに自己主張や欺瞞はまったく必要ない。必要なのは需要を完全に満たすだけの誠実な姿勢であり、あとちょっと何かオカズをくれ。

 と、自らの冒険をひとしきり嘆き、かといってこの想いを伝える術も当然なく、入り口に山積みにされた豚まん的なものを横目で見て、泣きながら車に戻ったのでした。

 車内にてiPhoneをグリグリさわり、三元豚について一生懸命ググったのは言うまでもありません。そしてそこにはこんなことが書いてありました。

「三元豚(さんげんとん)とは、三種類の品種の豚を掛け合わせた豚を言う」

 そうでしたか。

 自らが買おうとするものの本来の価値算定を怠って、それだけならまだしもあわよくばローコストでおいしいものに出会おうとするヨコシマな心には、見事に土が付きました。

 でもさ、なんでここでは、フリカケレベルの定食が成立してるのよ。みんなこれが好きなの?

 ちがいます。単純な話、SAのフードコートは、マイケル・ポーター氏の言う競争圧力が少ないからです。

『競争の戦略』(マイケル・ポーター著 ダイヤモンド社)

 この場所を目的に来る人はなく、マズい店の横においしい店を作ると人の流れが変わるという当然の進化も行われない。早い話が、競争のない、ガラパゴス定食です。

 そうした特殊な環境が商品開発に奢りを招き、毎日毎日『ん?』と思っているお客さんがいるにもかかわらず、たくさんの悲しみを産み続ける。

 こうした顧客の感情が、商品やサービスを提供する側の財務諸表に現れるまでには大抵2年ほどの期間がかかり、その間にゆるみきった運営の立て直しは、事実上不可能になっています。

 ニーズとのズレが許されるのは『競争がなく』『立地がいい』という場合に限られます。

 ニーズとのズレがあるプロダクトは、競争がそこにあるだけで、すぐに窮地に追い込まれます。

 食器返却口の横で一生懸命洗い物をしてくれていたおばさんの笑顔だけが救いでしたが、おいしかったのはゲップだけ。そんな悲しみを助手席に乗せて、次回こそ亀山を目指すのでした。〈つづく〉

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。慶応義塾大学商学部中退。大学を中退後、酒販コンサルチェーンKLCに在籍し、95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、無料メルマガと有料メルマガの配信事業を行う。99年に設立した子会社は設立から364日の日本最短記録でナスダックジャパンに上場したが、その際手にした資産も日本最短記録で見失う。

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資金量300万円で、これから投資をしようとする人向けに、大川氏が毎日ウォッチしている株の「どこを見て、どれぐらい調査して、どう判断しているか」独自の情報収集術とその学習方法を会員限定で公開している。
〈イラスト/松原ひろみ〉

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