ライフ

夜のスナックで働くわたしが得たもの、失ったもの…

第十五夜 酒を友とし、夜を生きること

 全国の酔っぱらいの皆さん、あけましておめでとうございます。  お正月休みは満喫できたでしょうか? わたしは地元のお寺へ初詣に行っておみくじを引いたところ、末吉という運勢のわりには金は貯まるわ、待人は来るわ、病気は治るわという随分と幸先の良い内容でした。病気が治るというならば、まず酒呑みという病を真っ先に治したいのだが、おそらくよほど痛い目に合わない限り死ぬまで治らない。  正月の間、実家の掘り炬燵で蜜柑や干し芋を食べながらうだうだゴロゴロして、わざわざ持ってきたノートPCには一行も文字を刻まずに、しかしそれでも酒を呑むということ、スナックという場所で働くこと、つまりは夜を生きるということについてぼんやりと考えていた。  キャバクラのバイトの時期も含めれば、そこそこの年数水商売をやっているわけだが、自由出勤制でキャストの換えもたくさんいるお気楽なキャバクラ時代と違って、スナックで働くようになったここ数年の方が、自分が「夜の人」になったという実感が強い。酒量も格段に増えた。  確固たる意志を持って働いているわけではなく、なんとなく流れでそうなったけど、お陰様でこんな連載をやらせてもらったりして、それなりに楽しい「夜の人」ライフを送っているが、去年のクリスマスあたりから年末にかけて、手放したものも同時に浮き彫りになってきて、意味もなく脳内で羅列した。  明らかに失われたのは友人知人と過ごす金曜の夜、土曜の夜。代わりに得たのは昼間の山手線通勤ラッシュからの解放。他人に感情移入する心の代わりに一歩どころか三歩ぐらい引いて見る姿勢が身について、物事を真剣に捉える真面目な心がどんどん薄れていった代わりに罵詈雑言叱咤憐憫すべて笑えてくる良く言えば屈強、悪く言えば捩じれた精神が宿った。  その他にも、常識とモラルに溢れた心優しい昼間の友人たちと疎遠になり、代わりにクレイジーな夜の仲間たちが増えた。安定的でゆるやかな恋愛はもともとなかったけど、さらに遠ざかり、刺激的かつ破滅的な恋愛にばかり身を落とす。何かを得る時、必ず同等の何かを手放していると今更ながらに気が付くのである。
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『人魚姫』が好きだったわたし
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(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani

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