更新日:2023年02月26日 09:26
お金

「物価なんて上がらないほうがいい」が見当違いな理由。元日銀副総裁が解説

 私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。

経済オンチの疑問/インフレよりも、デフレのほうがよくないですか?

経済オンチの治し方

イラスト/岡田 丈

 第一回目はデフレについてです。政府と日銀は、’13年に、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のため、2%のインフレ目標を導入する」と発表し、今現在もその目標の達成に努めています。 「2%のインフレ目標」と聞いて、「変じゃないか」と思われる方も多いのではないでしょうか。日本に暮らしていると安くて良いモノが買え、美味しいモノも食べられます。スーパーのマグロは高くて買えないけれど、「スシロー」に行けばお財布を気にせず、お腹いっぱいになるまでお寿司を楽しめる。  だから、「物価なんて上がらないほうがいいんじゃない?」と思う人も現れるのでしょう。しかし、それはまったくの見当違いです!

「デフレ」になると賃金の低下が進みやすい

 消費者の多くは労働を通じて対価(賃金)を得ています。物価が下がり続ける「デフレ」になると、物価の低下以上に、賃金の低下が進みやすいのです。  例えば、お米の価格が半分になっても、倍の量のご飯を食べる人はまれでしょう。ですから、価格が下がると、全体の売上高は減少してしまいます。  デフレで売上高が減ると、企業の利益も減り、悪くすると、倒産してしまいます。赤字にならないようにするための有力な方法は、費用を引き下げることになります。そのなかで大きな部分を占めるのは人件費です。  デフレ下で日本企業が採用した人件費の引き下げ方法は、正規社員の採用を減らし、正規よりも賃金の低い非正規社員の雇用を増やすことでした。
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安くモノが買えると喜んではいられない
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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