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とあるおっさんが、トイレで体験した身の毛もよだつ怖い話。背筋が凍り、涙が止まらない

ossan1-1おっさんは二度死ぬ 2nd season

本当にあった松岡さんの怖いはなし

 ビジネスホテルも行きつけのカプセルホテルも満室で、仕方なしに飛び込んだ個室ビデオ店で、最後に1つだけ空いていた個室を譲り合った、というよく分からない経緯で仲良くなった松岡さんというおっさんがいる。  その松岡さんは、会う度に怖い話をしてくれる。 「それはエアポケットのような時間じゃった」  昔話の語り部を意識しているのか、いつも出だしだけは古めかしい口調で言ってくる。あと必ず「エアポケットのような時間」という文言が入る。たぶん松岡さんは何らかの勘違いをしていてエアポケットをホラー的なにかと認識している。  以前に、死んだネコがエアポケットから帰ってくる夢を見た、と話していたので異界とか死後の世界みたいなニュアンスで使っていると思う。まあ間違いを指摘するのも野暮なのでそのままずっと放置している。  ちなみに、エアポケットという言葉自体も、もともとは間違いから生まれた言葉だ。飛行機が高度を急激に落とす原因として考えられていたもので、そこでは空気が希薄な場所があって、それで高度が落ちると考えられていた。だからこのような名称がついている。しかしながら、昨今の解析で、急激に高度を落とすのは局地的な下降気流によるものだと判明しており、別に空気が希薄なわけではないので、エアポケットという呼び方自体を使わなくなっている。  つまり松岡さんはもともと間違いから派生したエアポケットを間違えて使っているという人なのだ。

松岡さんの話す、怖い話とは

「仕事をしていたらお腹が痛くなったんだ。そうなると、まあ、当然ながらトイレに行くわな」  松岡さんの怖い話は、幽霊だとか妖怪だとか怪物だとかそういった異界めいたものではなかった。エアポケットを異界めいたニュアンスで使うクセに、そういったものはまったく出てこなかった。 「まあ、ウンコするわな」  話の途中で、本当に真剣に聞いているのか確認を取ってくるのでまあまあ面倒くさい。 「そうですね、ウンコに行きますね」  と反応しないと先に進まないのだ。ウンコをするかしないかなんて確認が必要な部分ではない。そりゃ腹が痛いならするだろ。その辺は確認がなくても先に進んで欲しいと思うけど、そういうわけにはいかないらしい。 「ウンコも終わったし、さあそろそろ出るかって、なったんだけど、そこに誰かがトイレに入ってきたんだよ。どう考えても同僚の誰かが入ってきたんだよな」  まあよくありがちなやつだ。 「そうなると声を押し殺すよな」 「そうですね、押し殺しますね」  この辺はちょっと女性には伝わりづらいかもしれないけど、この連載の読者に女性はいないだろうという確信を持っているので、そのまま続けさせてもらう。
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HUNTER×HUNTERでいうところの“絶”
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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