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山野車輪氏「生活保護に代わる新たなセーフティネットのシステムを!」

生活保護に代わる新たなセーフティネットのシステムを!  生活保護が抱える諸問題を概観してきたが、この制度はもはや助け合いの精神だけで維持できる段階をはるかに超えている。ゆえに受給者を減らし、労働人口を増やすためにも失業対策は緊急の課題と言える。だが、この問題の根はさらに深いところにあると『「若者奴隷」時代』の作者で漫画家の山野車輪氏は言う。氏は作品の中で世代間の格差が日本社会を縛っていることについて多面的に論じているが、失業若年層の生活保護問題はこうした議論抜きでは語れないと力説する。 「働けない若者を非難する前にまず、なぜ彼らがカネを持っていないのか、を考える必要があります。現在、社会の上層を占めている50~60代には、その生産性に見合った以上の給料を取っている、いわゆるノンワーキング・リッチが多すぎます。また、高齢者は納めた額を遥かに超えた年金を受給しています。根本的な問題として、若者から収奪する構造が日本にはあるのです。このことを改めて認識する必要がありますね」  とはいえ、ノンワーキングリッチの解雇規制を撤廃して雇用を流動化させれば日本経済の生産性が上がる、といった類の議論をしても、何のスキルもない若者たちが、そこである一定のポジションを占めることができるのだろうか。 「若年層の男性は、もはや4人に1人が非正規労働者となっています。今後、労働者の形態は雇用の調整弁たる非正規労働者と、高度な専門技術を持つスペシャリスト、そしてそれらを管理する幹部社員に分かれていきます。かつてのように就職するなどしてスキルを蓄積する機会を与えられなかった若者は、社会的にステージを上げていくことは不可能でしょう」  この労働市場の中で、こぼれる者はどうしても出てくる。かといって彼らを放置したままにすれば社会の不安定化に直結する。 「制度を維持するなら、生活保護と労働をバーターにすればいい。政府・自治体が単純労働でもよいから彼らに仕事を与える。彼らの活力にはなるでしょう。しかし、そもそも仕事の数が減っているから限界はありますが……」  やはり現行の生活保護には限界があるようだ。ではその代わりにどのようなセーフティネットを構築すべきなのか? 「生活保護は不正受給が問題になっていますが、その総額は総支給額の3兆円に比べればたかだか年間100億円(厚労省調べ)です。不正受給の摘発や監視のために多くの人員を割くのではなく、最低限度の生活を保障するための現金を全国民に支給、その他の社会保障を縮小するベーシック・インカムを私は推奨したい。最低限の収入が保障されれば、賃金の安い仕事は辞めることもできるし、人が集まれば会社を興す資金にもなる。そして、なによりも公平です」  これに合わせて、現在企業に課されている労働者の社会保険と年金の半額負担を撤廃し、企業が労働者を雇いやすい状況をつくることも重要だと氏は語る。これを夢物語と言うのはたやすいが、生活保護がすでに砂上の楼閣と化している今、新しい制度を模索する時期に来ているのではないだろうか。
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『「若者奴隷」時代』では全国の12都府県で最低賃金の額が生活保護額の 水準を下回っており「働いた人が損をする」という図式が説明されている山野車輪氏
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’71年生まれ。言論漫画家。著書に若者の労働問題や高齢者との 本質的な格差を描いた本作や『マンガ嫌韓流』シリーズ(晋遊舎)など 取材・撮影・文/野中ツトム(清談社) 遠藤るりこ(ビッグアップル・インターナショナル) 遠藤修哉(本誌) ― 30~40代[生活保護受給者]のリアル【6】 ―
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