第3回将棋電王戦全5局を総括。「1勝4敗」の意味するものとは?

 2014年4月12日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する団体戦『第3回 将棋電王戦』が閉幕した。最終結果はプロ棋士側の1勝4敗で、昨年の『第2回』と合わせると2勝7敗1引き分け(持将棋)と大きく負け越し。現在のコンピュータの実力は、プロ棋士の平均どころか、間違いなくトップクラスと言ってよいものであることは明らかだ。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/626805/05-02

 人間とコンピュータが将棋を指したら、どちらが強いのか。そのシンプルな疑問に答えるための棋戦としての電王戦は、いま大きな岐路に立たされている。もう決着はついてしまったのではないか。強くなる一方のコンピュータに対して、たとえこれから森内俊之竜王名人、羽生善治三冠、渡辺明二冠のようなタイトルホルダーをぶつけても、すでに手遅れなのではないか。

 しかし『第1回』から取材を続けてきた記者としては、そう単純に「もう電王戦は終わった」「コンピュータは名人を超えた」とは言いがたいところがある。それは一将棋ファンとしてプロ棋士に肩入れしているからでも、この記事を読むであろう将棋関係者に対して不用意な発言は慎もうなどという意図からでもない。その逡巡の理由を『第3回』の総括をしながら考えていきたい。

 まずは『第3回』の将棋の内容を、それぞれ大まかに振り返ってみよう。当日の放送を見ていない方も、電王戦の公式サイトから無料でニコニコ生放送のタイムシフトや棋譜などを確認できるので、ぜひご覧いただきたい。

◆第1局 ●菅井竜也五段vs○習甦

 先手の真っ向勝負の中飛車を後手が厚みで押しつぶしたという将棋。実は『第2回』でツツカナと対戦した船江恒平五段は、当時から検討室で「コンピュータは(振り飛車と居飛車の)対抗系だと、どちらを持っても強い。なかなか勝てない」と語っていた。その意味では、振り飛車党の菅井五段は目先の勝ち負けよりプロとしての矜持を優先したとも言える。練習対局の勝敗はほぼ五分だったようだが、若手屈指の実力を持つ菅井五段が力負けしてしまったという意義は重い。

 なお船江恒平五段の発言はツツカナとの対局前のもので、将棋の内容に大きく影響する可能性があったため、当時は記事にすることを控えていた。しかし、現在では複数のプロ棋士があちこちのメディアでコンピュータの対抗系での強さを証言している。ちなみにコンピュータ同士の対抗系では居飛車側の勝率が非常に高いため、特別な設定が施されていない限り、コンピュータが振り飛車を選択することは少ない。

第1局の終局直後の様子

第1局の終局直後の様子

※人間とコンピュータの戦い再び 第3回「将棋電王戦」第1局観戦記
http://nikkan-spa.jp/609458

◆第2局 ○やねうら王vs●佐藤紳哉六段

57手目▲7三歩成

57手目▲7三歩成の局面図。この前の▲6四歩打からの手順が佐藤六段のエアポケットになったようだ。:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

 やねうら王の初手端歩突き(▲1六歩)には開発者も含め誰しも驚かされたのだが、結局は先手四間飛車に対して後手居飛車穴熊と、アマチュアにもおなじみのきわめてオーソドックスな戦型に落ち着いた。プロレベルだとたいてい穴熊側が勝つためプロの対局ではあまり見られなくなった形だが、佐藤六段の一瞬のスキを突いた▲6四歩打~▲7三歩成からやねうら王が優勢になり、そのまま押し切った。

 第1局に続いて中盤で拮抗し、指し手の選択肢が広い局面(将棋用語で「ねじり合い」と呼ばれる)になった。ねじり合いでは直観で指し手をしぼって読む人間に対し、先入観なくベタ読みするコンピュータの計算速度が最大限に活かされるため、人間側が不利になりやすいのではないかということが言われ始めていた。むしろ人間が勝つとすれば、直線的に長手数を読めるような、選択肢の少ない激しい戦いではないか、と。

◆第3局 ○豊島将之七段vs●YSS

22手目△6二玉

22手目△6二玉の局面図。プロ棋士の間でもコンピュータが生んだ新手となる可能性が取り沙汰されている:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

 豊島七段が、プロの実戦ではほとんど前例がない「横歩取りでの△6二玉」の形にYSSを誘導して見事に圧勝。1000局近くシミュレーションしたという深い研究でYSSの弱点を知り尽くしていたのでは……と終局直後は思われていたのだが「△6二玉になる確率は5%程度」で、たとえ△6二玉でも必勝とは言えず、それどころか難しい変化もあって成否はわからないというのが実情だったようだ。

 コンピュータとの対局で事前に貸し出しがあれば、必勝法を見つける、あるいはそれに準ずるような研究が可能ではないかと思われるかもしれない。しかし、プロ棋士数名に尋ねてみても、電王戦レベルのコンピュータが相手では、よほど時間をかけて数千局の統計をとっても、指し手の傾向をつかんだり、やっと中盤で少し有利かなという展開にできる程度だという。もちろん実際の対局では、その研究から先も最後までノーミスで指し続ける必要がある。

 中盤までは超早指しで、ねじり合いにはせず、思い切りよく攻めこんで指し手の選択肢を減らし、勝負どころでしっかり時間を使う等、この将棋は実際のところ、たんに「豊島七段がうまく指した。強かった」というのが正しいだろう。そもそも豊島七段は菅井五段と同じく通算勝率7割超えの超強豪である。デジタルに強く考え方も柔軟な若手というのも、コンピュータの相手として適していたと言えるのではないか。

◆第4局 ○ツツカナvs●森下卓九段

 相矢倉の定跡「森下システム」で知られる森下九段にふさわしい、がっぷり四つの相矢倉の将棋に。いくつかコンピュータらしいアクロバティックな指し手や手順があったが、優勢になってからは着実に自分の優位を細かく積み重ねる「まるで森下九段のような」指し回しを見せたツツカナが勝利した。

 基本的に相矢倉は先手が主導権を握ることが多い戦型なので、できれば森下九段の先手番で見てみたかった将棋ではある。とはいえ森下九段を相手に横綱相撲を見せたツツカナは、やはり強い。終局後の森下九段は思いのほか明るく、ツツカナのおかげで将棋に対する熱意が復活したと語り、実に楽しそうな姿がきわめて印象的だった。

 ちなみに森下九段は、この対局の前から、コンピュータと指すときの新しいルールをいくつか提案している。まず決して物忘れをしないコンピュータに対抗して、頭のなかだけでなく「自由に動かしてよい盤駒を別に用意する」こと。また持ち時間を使い切ったあと、秒読みではなく「1手15分」などにして、できるだけ「ヒューマンエラー」をなくすこと。大きな部分はこの2つだ。

 記者会見で森下九段は「このルールなら私でも5局全勝まちがいなし!」と豪語していたが、この提案の真の意図は、これなら人間がコンピュータに勝てるから、という話ではない。どちらが勝つにせよミスで勝負が決まることが減り、より純粋な将棋の技術の攻防を見せられるという趣旨である。

 さすがに電王戦全体にこのルールを適用するのは時期尚早というか、プロ棋士が盤駒を使って検討しながら戦う姿を見たくない将棋ファンも多いかもしれないが、昨年末の『電王戦リベンジマッチ』や『電王戦タッグマッチ』のように、森下九段がエキシビション的にツツカナと再戦するなら、その際はひとつお試しとして、このようなルールでもよいのではないだろうか。

※【電王戦リベンジマッチ観戦記】プロ棋士に同じ技は2度通じない!?
http://nikkan-spa.jp/573919

◆第5局 ●屋敷伸之九段vs○Ponanza

18手目6二玉

18手目6二玉の局面図。第3局とは少し形が異なる:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

 大将戦は、なんと第3局と同じ「横歩取りでの△6二玉」の形に。もちろん屋敷九段は、勝ちやすいと考えて誘導したはずだ。またプロ棋士とコンピュータの見解が食い違っていたという意味では、おそらくこの対局が最も好対照だった。終盤の入り口まで、プロ棋士はほぼ全員先手持ち、検討室のコンピュータはすべてが後手持ちという状態だったのだ。

 特に注目すべきは、88手目の△7九銀打からの十数手。この88手目まで屋敷九段は駒損した上に攻めこまれているが、駒の効率は自分のほうが良く、ギリギリ勝てると見込んでいた。△7九銀打には、王様が手順にスルスルと逃げ出せるので「驚いたが、ひと目ありがたい」と考えていたようだ。検討室のプロ棋士たちの直後の見解も、ほぼ同様だった。

 一方で、開発者たちは自分たちのソフトがはじき出す評価値をあまり信用できていないようだった。△7九銀打以降、王様が上の方に逃げ出す展開だと評価関数がうまく働かなくなるからだ。コンピュータが苦手な入玉の状態に近くなればなるほど、そうした傾向は強くなる。開発者たちは「自分のソフトが負けるときによくあるパターン」を熟知しており、本局は開発者たちの直観では怪しい雰囲気が漂っていたのだ。

102手目6四玉

102手目6四玉の局面図。次に▲8一成香でなく▲6六歩であれば、勝負はまだわからなかった:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

 厳密な判断はきわめて難しい一手だが、局後にPonanza開発者・山本一成氏がブログに公開した自戦記の内容も含めて考えると、当面の結論として△7九銀打は、やはりあまり好ましくない手だったのではないだろうか。この段階では屋敷九段のほうがPonanzaより正しく局面を評価しており、自分の間違いに気づき始めたPonanzaがなんとかしようと指した勝負手というイメージだ。

 屋敷九段の103手目▲8一成香がほとんど唯一の、しかし重大なミスで、かわりに▲6六歩や▲4九飛であれば、いったいどんな将棋になっていたのか……というところ。昨年の大将戦はGPS将棋が底知れない強さを見せたが、今年はむしろ敗れた屋敷九段の強さ、大局観や形勢判断の正確さが光ったように感じている。

⇒【後編】へ続く『電王戦は“終わった”のか? 単純な「勝ち負け」を超えたその先の勝負へ』
http://nikkan-spa.jp/626806


◆将棋電王戦 HUMAN VS COMPUTER(タイムシフト無料、各局の棋譜も公開中)
http://ex.nicovideo.jp/denou/

◆電王戦最終局 屋敷九段とPonanzaの自戦記(後半) – 山本一成とPonanzaの大冒険
http://ponanza.hatenadiary.jp/entry/2014/04/16/024258

<取材・文・撮影/坂本寛>

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