“荒馬”と“喧嘩番長”のふたりのあいだでしか成立しない会話――フミ斎藤のプロレス読本#077【テリー・ファンク編エピソード2】
テリーもディッキーもいまが旬というプロレスラーではない。体力的にはもうかなり衰えているほうかもしれない。それでも、荒馬は荒馬の、喧嘩番長は喧嘩番長のレスリングをつづけている。
観る側にしてみれば、いくらトシをとったって名優は名優でありつづける。元気に動いてくれさえすれば、なにをやっても名場面にみえる。
ふたりのしゃべっていることが完ぺきには理解できなくても、テーブルには笑いが絶えない。いまはサラリーマン、自営業、OLさん、主婦になった20代後半から30代前半くらいの友人たちは、かつてはテリーとドリーのザ・ファンクス、ディッキーに会いにホテルにやって来る少年ファン、少女ファンだった。
いつのまにかテリーもずいぶん髪が薄くなったし、ディッキーの顔にもシワが増えた。アメリカにいるときは喧嘩番長が荒馬の家に泊まりにいったり、荒馬が喧嘩番長のところに遊びにいったりしているらしい。ふたりとも、いまは肩の力を抜いて生きている。
テリーもディッキーも、リングから離れて暮らすなんてこれっぽっちも考えたことはない。プロレスをつづけるのは自分ためでも生計を立てるためでもなくて、そうするよりほかにないからだ。
ふたりとも、ギビングgivingとテイキングtakingのどちらかを選べといわれたら、迷わずギビングを選択する男たちである。イライラもくよくよもない。あるのは自然体のウィズダムwisdom(知恵、分別、賢明さ)だ。
「ユーの鼻はあいかわらずデカいな」
「ユーの鼻だって、ちいさかないぜ」
テリーとディッキーがニコニコしていると、そこにいるみんな――テリー・ファンクとディック・スレーターを観て育った世代のプロレスファン――がハッピーになる。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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