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消費税増税のペテンを暴いた安倍首相。民主党と財務省による「緊縮財政政策」とは決別を【評論家・江崎道朗】

機動的な財政出動を禁じた財務省と菅民主党政権

日本社会 そこにはもう一つの理由、アベノミクス第二の矢「機動的な」財政出動が不十分という問題点も存在している。  安倍政権としては、地方経済に即効性がある公共事業などを増やし、景気回復を促進しようとしたのだが、それを妨害してきたのが、菅直人民主党政権の方針であった。  菅首相は2010年6月にカナダのトロントで開かれたG20首脳会議において、「2015年度にGDP(国内総生産)に対するPB(基礎的財政収支)の赤字額の割合を2010年度比で半減し、さらに2020年度に黒字化する目標」を表明した。  この性急な財政再建路線が年来の主張である財務省は、菅首相の「対外表明」を「国際公約」と称することで安倍政権の財政政策を縛ってきたのだ。  このため安倍政権は、消費税増税の税収の大半を「政府の」借金返済に使わざるを得なかっただけでなく、「機動的な」財政出動もできずにいたわけだ。北朝鮮有事に対応して防衛費を増やすことができないでいるのも、これが大きな要因だ。  そこで安倍首相は今回の会見でこう述べている。 《増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます。他方で、2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成は困難となります。》  つまり、性急な財政再建を定めた、菅民主党政権当時の「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標」を見直したい。現時点では財政再建よりも、景気回復を優先し、景気回復を通じて税収を増やし、社会保障を手厚くする戦略に切り替えたいと提案したのだ。  新聞やテレビの報道だけではわかりにくいが、安倍首相は今回、「消費税増税」の増収分の使途変更と、「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標という緊縮財政政策」の見直しの二つを争点に掲げた。この提案に賛成か反対か、決めるのは我々有権者である。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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