更新日:2017年11月15日 18:02
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「日本はもっと賢く強くあってほしい」台湾の元外交官による問題提起とは?【評論家・江崎道朗】

江崎道朗のネットブリーフィング 第19回】 トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う!

アメリカは一枚岩ではない

 中国や韓国だけがアジアではない。インド、ASEAN諸国、台湾、モンゴルとアジア太平洋地域には多くの国があり、その歴史観も多様だ。  烏山頭ダムを建設した八田與一技師像などにお参りするため8月に台湾を訪問した際、台湾の元外交官、張文仁氏とお会いした(八田與一像は元台北市議の男らによって今年5月に破壊されたが、地元の皆さんの努力で直ちに修復されていた)。 烏山頭ダムを建設した八田與一技師像 烏山頭ダムを建設した八田與一技師像 1933年生まれで1998年まで実に30年間(そのうち東京で5年、沖縄で5年の計10年間は日本勤務)、外交官生活を送った張氏は、戦前・戦中・戦後の近現代史についても詳しく、先の大戦についても、いわゆる「日本だけが悪かった」史観ではない。  張氏は、ルーズヴェルト一族が中国のアヘン取り引きで財をなしたと指摘する。 「ルーズヴェルト大統領の母方の大祖父と大叔父は若いとき、香港で商売をして一大家財を作った。中国に阿片を売ったのでした。そして彼の一族は、中国は大きな餅で、アメリカも是非食べたい、日本に独り占めにさせてはならぬと思った」  そう考えて日本に圧力をかけたのが、民主党のF・ルーズヴェルト政権であった。いまも昔も、アメリカは一枚岩ではない。民主党と共和党とでは、対日政策も異なる面が多い。戦前、日本に経済的圧力をかけた民主党のルーズヴェルト政権に対して、野党の共和党はどちらかと言えば、対日協調派であった。
江崎道朗

江崎道朗(撮影/山川修一)

 意外かも知れないが、日本との貿易を重視している経済界を支持母体としている共和党は当時、ルーズヴェルトの対日圧迫外交に反対していたのだ。日本でも、自民党の安倍政権と、民進党とでは、対米政策が大きく異なる。  ところが、日米戦争前の東條英機政権は、対日協調を主張していた野党の共和党には目もくれず、ルーズヴェルト民主党政権の「対日挑発」に乗ってしまった。東條首相は傑出した軍人であったが、挑発に乗って日米戦争に踏み切ったのは判断ミスではなかったのか、というのが張氏の主張だ。
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東條政権、四つの判断ミス
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。

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