更新日:2022年10月24日 00:48
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キーワードは寝返り? 睡眠負債を解消する「マットレス開発戦争」最前線

北島康介の金メダルにも寄与した寝具

 寝返りを打ちやすい環境こそ善とは、知らない人も多いのではないだろうか。これについてはエアウィーヴも2007年の商品誕生時から一貫して同様の主張をしている。「一瞬の快適性よりも、寝返りをサポートすることで格別の眠りを実現し日々のコンディションを整える」という考えだ。  従来、寝具とはベッドに入り、寝付くまでの快適さで買われるものだった。が、前出・エアウィーヴの高岡氏は「睡眠の質」で売ることを考えたといい、「その人のパフォーマンスが最大に改善される寝具」を作ることを目指した。  エアウィーヴが大きな話題となったのは、2008年の北京五輪の際、水泳の北島康介が同社のマットレスを持っているシーンがテレビに登場したことにある。2008年9月12日の日経新聞には、「100メートルの金メダル 前日の昼寝が勝因」との見出しの記事が登場。高岡氏も、ムチウチで入院していた際、病院のベッドが合わず、余計体調が悪くなったことから不満を感じ、マットレスパッドを作りたいと思ったそうだ。「快眠」においては、睡眠という行為が1日の3分の1を占めるだけに、「寝入るまで」ではなく、その後「寝付いてから」が重要という考えを同社はしている。さらには「睡眠の質」も重要だと述べる。

「人間が“オフ”になるとき、睡眠の価値が高まる」

 前出・エアウィーヴ樋口氏はこう語る。 「西野先生の本が売れていますね。“睡眠負債”がグーグルでも多数検索されています。24時間LINEやFacebookで他人と繋がる時代ですが、いわゆる人間が“オフ”になるときにこそ、睡眠の価値が高まる。睡眠まわりに関する世の中の関心は高まってきています。アメリカでは、『ハフィントンポスト』を立ち上げたアリアナ・ハフィントン氏が健康的なライフスタイルのための団体を主宰しています。また、スポーツメーカーのアンダーアーマーはアスリートに向けた睡眠時のリカバリー用のスリープウェアを開発したりしています。健康に過ごすためにも、『快眠』は世界的な傾向として進化していくと思います。我々は寝具業界のアップルと言われるような存在を目指し、今後も快眠に向けた商品を開発していきたいです」  ライズTOKYOの藤間氏も「質の高い睡眠」についてこう述べる。 「優しく包み込まれるマットレスは寝心地が良いため、好まれる方は多いと思います。しかし、我々は寝心地がいいことが質の高い睡眠ではないと考えます。高反発マットレスの上で寝ると、最初は『硬い』など違和感を覚えるかもしれませんが、数日~数十日で身体も慣れ、熟睡できるようになります。寝返りが打ちづらいと無意識のうちに目覚めてしましまいますが、寝返りが打ちやすいと熟睡でき、質の高い睡眠になります」

唾液を採取して快眠度を計測

 エアウィーヴとライズが「高反発」を述べているが、エムールは意味合いの異なる「高弾性」という言葉を使う。前出・沢田氏はこう述べる。 「高反発は『堅さ』があります。柔らかさがありつつも、でも沈み込まない。これが“高弾性”です。柔らかいものの、持ち上げてくれるのが“高弾性”、堅くて持ち上げてくれるのが“高反発”です」  睡眠をめぐっては、こうして様々な研究があるが、各社研究開発には余念がない。エアウィーヴは西野氏や内田直・早稲田大学名誉教授 すなおクリニック院長 日本睡眠学会睡眠医療認定医と睡眠と寝具にまつわる研究を続けている。エムールは国立電気通信大学と共同で研究をして、「エムールスター」を開発している。 「ストレスなく眠っていただきたいので、物理的にストレスが下がったかどうかを『唾液を取って』確認する方法を用いました。実際に寝たうえで、気持ちよく寝られかどうかを物理的に計ったところ、やはり数値の低減が見えました。唾液アミラーゼ値が45.2→34.5に減りました。また定性アンケートでも、使用者の70%が『寝心地が改善した』と答えました」(エムール・沢田氏)  ライズでは、元マラソン選手の高橋尚子氏が製品開発アドバイザーとして、ミーティングにも出席。また、元プロ野球選手の桑田真澄氏は「ライズ健康睡眠プロジェクト」のスペシャルパートナーとして「高反発マットレスK18(ケイティーン)」の開発に関わった。同商品は「ラテックス360 ベッドマットレス」(柔らかさと高弾力構造を兼ね備える)と「3Dブロック」(寝姿勢を保持)がある。
K18

“投げる哲学者”こと桑田真澄も開発に傘下したK18

 こうした各社の取り組みを見ていると、ビジネスマンにとって「寝ている時間はもったいない」という既成概念から、「寝ている時間こそチャージの時間」と考えを改める必要性を感じざるをえない。「睡眠は質が重要」と肝に銘じたい。 取材・文/日刊SPA!編集部
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