雑学

キーワードは寝返り? 睡眠負債を解消する「マットレス開発戦争」最前線

 スタンフォード大学教授・西野精治氏の著書『スタンフォード式 最高の睡眠』が、27万部超の大ヒットとなっている。同書では6月に放送されたNHKスペシャル『睡眠負債が危ない~“ちょっと寝不足”が命を縮める~』で話題になった「睡眠負債」がいかに恐ろしいもので、適切な睡眠を取らないと心身ともにダメージを受けることを解説。さらに、快適な睡眠をいかにして取るか、という方法論にまで踏み込んだ意欲作だ。

 睡眠不足の人が諸外国と比較して多い日本。一方で「寝不足自慢」の傾向も残る上に、上司は「オレが若い頃は3徹なんて当たり前だった。お前はたるんでおる!」なんていまだに言ったりもする。しかし、今の時代、たくさん寝る方がカッコいいのである。

 堀江貴文氏も8時間寝ると明言しているし、そろそろ我々は妙な呪縛から解放されなければならない。しかし、「睡眠なんて時間の無駄」「24時間働けますか」が刷り込まれてきた日本のビジネスマンがいきなり「よく寝ろ」と言われても、そう簡単に実践できるものではない。

 そんな状況の中で、寝具メーカー各社は科学の力を用い、研究開発を勤しんでいる。ここでは「睡眠負債打破」「最高の睡眠」のための商品開発の開発秘話を、探っていきたい。

交通事故がきっかけで生まれた新商品


 一社目は、「スタンフォード式」の西野氏が就寝時の睡眠脳波・深部体温測定などで共同研究を行ったエアウィーヴだ。浅田真央、錦織圭、高梨沙羅、坂東玉三郎がイメージキャラクターを務める同社のマットレスの中にはエアファイバーという高反発の独自繊維素材が入っており、「復元性(体重を押し返す力)の高さから寝返りがラク」「通気性の良さでダニやカビの心配いらず」「体圧分散」「洗えて清潔」という特徴がある。

エアファイバー

偶然から生まれたエアファイバー

 2007年に開発されたマットレスには、不慮の事故が大きく影響していた。代表取締役の高岡本州氏が30代の頃に交通事故に遭い、ムチウチになって以降、体調に異変をきたした。それを改善するためにマットレスパッドの開発をスタートしたのが誕生のきっかけだ。

 叔父が運営していた樹脂の成型機械を作る会社が使っていた素材を使って、エアファイバーを開発。あくまでも成型機械を作るメーカーだったのだが、運転のサンプルとして動作確認をする際、くちゃくちゃに絡まった糸状の素材が出てきた。これを握ってみたところ弾力があり、そこからクッション材の開発をすることになったという。それが後にマットレスの形になったのだ。

 企業名でもあり商品名にも含まれる「エアウィーヴ」は「空気を編む」を意味する造語だ。広報担当の樋口萌子氏は「高機能寝具の元祖かもしれません」と語り、「テンピュール」等、低反発で包み込まれるタイプの寝具とは異なる考え方で生まれた商品だ。

ファイバーとウレタンが業界地図を二分


 その一方、ウレタンを採用するのが「エムールスターオーバーレイマットレス」を製造販売するエムールだ。人事広報チームリーダーの沢田氏が語る。

「2016年夏に発売したばかりですが、現在の寝具トレンドでは、『ウレタン』を使ったものか、『エア素材(ポリエチレン系)』を使ったものが有名です。しかし、ポリエチレンだと若干堅く、女性やご年配の方から不評の声もある、と販売している中で聞いてきました。一方で、ウレタン系は当社も製造・販売していましたが、『最大の欠点』があります。それは『熱い』点にあります。熱がこもりやすいのです」

 そうしたことから、「ソフラン」というメーカーの「Comfo Climate Foam」(以下CCF)という“高機能ウレタン”を採用。

「通気性もクリアして、かつ寝心地もいい。『堅いのも苦手で、柔らかすぎるのも苦手』という不満を包括的にクリアするのが狙いです。さらに、快眠のコツを紹介する際、『温度』にフォーカスされがちですが、それ以上に『湿度』が大切です。CCFは湿気を吸って、はき出すところが特徴。通常のウレタンだと湿気は吸いますが、それが抜けていきません。湿気が段々と溜まっていき、汗は乾きづらくなります。しかし、CCFなら寝具内の湿度も一定で済む。それがいちばんの特徴です」

湿度

熱のこもりやすさを解消

 このように「ファイバー派」「ウレタン派」と分かれたが、大手ではアイリスオーヤマの「エアリー」は「ファイバー派」で、東京西川の「AiR」は「ウレタン派」だ。今回両社の都合がつかず取材はできなかった。

「寝返りがしっかり打てる=質の高い睡眠」


 ファイバー、ウレタンともに商品開発をしているメーカーもある。ライズTOKYOは、同社が展開するブランド「ライズ」から「スリープオアシス」(ファイバー)と「スリープマジック」(ウレタン)を発売。スリープマジックには「ウェーブタイプ」(線で支える・高反発が初めての人向け)、「ブロックタイプ」(点で支えるタイプ・硬めの寝心地が好きな人向け)がある。その特長について、広報担当者の藤間葉子氏が語る。

「両方とも高反発素材を中材に採用しています。弊社が高反発マットレスにこだわっているのは、『動的睡眠』を促進するから。これは、寝返りをしっかり打てる質の高い睡眠です。実は、眠っているとき、静かに横たわっているだけでは体にあまりよくありません。寝返りをしっかり打つことで動く。アクティブな睡眠をすることが、すごくいいと思っています。

 人間にとって、寝返りはとても重要です。寝返りをすることで、背骨を整えたり、血流の流れを良くしています。高反発マットレスは身体を押し上げるように支えるため、寝姿勢を整え、寝返りを打ちやすくします。逆に柔らかいマットレスや、低反発マットレスだと腰が“くの字型”に沈んでしまい、寝返りが打ちづらくなります。これで腰痛の原因になることも。このため、ライズでは高反発マットレスを取り揃えています」

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北島康介の金メダルにも寄与した寝具

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