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バディ・ロジャース 本格派ヒールのチャンピオン像――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第5話>

バディ・ロジャース 本格派ヒールのチャンピオン像――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第5話>

『フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100』#005は「バディ・ロジャース 本格派ヒールのチャンピオン像」の巻(イラストレーション=梶山Kazzy義博)

 ヒール=悪役の世界チャンピオンのスタンダード・モデルを構築したレスラーである。“ヒール人気”というコンセプトは、バディ・ロジャースによって実用化、ビジネス化された。  プロレスにはベースボールやフットボールのような公式ルール・ブックというものが存在しない。  相手の両肩をマットにつけるピンフォールは3カウント。サブミッション=関節技に対してギブアップの意思表示があれは試合終了。選手が場外に落ちた場合は10カウント(日本では20カウント)以内にリング内も戻らなければ失格。  観客はこういったベーシックなルールのようなものをなんとなく頭に入れて試合を観戦する。  ロジャースの試合は対戦相手とのやりとり、レフェリーとのやりとり、観客とのやりとりという3つのコミュニケーションがつねにワンセットになっていた。  ロジャースがサイド・ヘッドロックの体勢から相手の脳天にパンチを打ち込んだとする。レフェリーは握りこぶしをつくって「パンチはダメだ」とロジャースに注意をうながす。  ロジャースはできるだけ大げさなゼスチャーで手のひらをレフェリーにみせながら「いまのはオープン・ハンドだ。パンチじゃない」とやり返す。ここで観客はパンチは反則で、チョップは反則ではないというルールのディテールを理解する。  レフェリーの目を盗み、ロジャースが相手のタイツをつかんでテイクダウンをとる。レフェリーが「タイツをつかむ行為は反則だ」と警告する。  ロジャースが相手の髪をひっぱる。レフェリーが注意を与える。ロジャースがサミング=目つぶし攻撃をする。レフェリーがまた注意を与える(ちなみにサミングの語源は、サムthumb=親指)。  ロージャスがコーナー・サイドでロープをつかんだまま相手に攻撃を加える。シューズのつま先で相手を蹴りあげる。ロジャーズが反則を犯すたびにレフェリーは反則カウントを数え、クリーン・ブレークを命じる。  ロジャースが相手の首を絞めつける。レフェリーは反則カウントを数える。ロジャースはカウント4でニヤリと笑って相手からパッと手を放す。  反則攻撃はカウント5のコールで試合終了となるが、カウント5以内ならばそのまま試合が続行される。このあたりのルールのあいまいさが、プロレスのいちばんプロレスらしいところといっていい。  ロジャースとレフェリーのパントマイムのようなやりとりによって、観客はぐいぐいと試合に吸い込まれていく。これがプロレスのいちばん基本的なサイコロジー(心理学)である。  トレードマークは、フィギュア・フォー・グレープバインと呼称された足4の字固めとストラートstrutと呼ばれる気どった歩き方、そして、大技を食らったあとでキャンバスをのたうちまわりながら“オー・ノー”と叫ぶシーン。  こういった定番の名人芸の数かずは、1970年代のニック・ボックウィンクル、1980年代の“ネイチャー・ボーイ”リック・フレアー、1990年代後半のトリプルHらにそっくりそのまま継承されていった。  バディ・ロジャースという映画俳優のようなリングネームは、1940年代に流行した三文SF小説に登場するキャラクター名からアダプトしたもので、プロモーターのジャック・フェファーJack Pfeferからプレゼントされたというニックネームの“ネイチャー・ボーイNature Boy”もこの時代のポピュラー・ソングのタイトルだった。  ネイチャーnatureという単語には自然、自然の摂理、野生といった意味のほかに本質、本性、生命力、肉体的欲求、迫真性、真実味といった定義がある。
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宿命のライバルは“鉄人”ルー・テーズ
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