仮想通貨を盗まれて、親友から借りたカネも返せなくなった――「お金0.0」ビットコイン盗まレーター日記<第5回>
AM 8:00
築地市場駅
いた。
僕「おはようございます!!!あのですね…!」
親友「あれぇ?!こんなところでお会いするなんて、奇遇ですね~」
僕「え、あ、そ、そうですね~。奇遇ですねぇ~…」
親友「今日は、お寿司ですか」
僕「はい。お寿司です」
親友「行きましょう」
僕「はい…」
オキマリの挨拶で機先を制された。だが、まだ言うチャンスはある。
親友行きつけの岩佐寿しへ。
店内に入ると、キレイな女将さんが迎えてくれる。
女将「いらっしゃいませ。明けましておめでとうございます」
僕&友「おめでとうございます」
女将「どうぞこちらへ。お正月はいかがお過ごしでしたか?」
親友「いえ、どこも行けず・・・」
女将「あら、どこかお悪いんですか」
親友「えぇ。特に懐具合が」
女将「まぁ!んもー!」
店内が笑いに包まれる。
親友「何にしようか」
僕「ぼく、今日は、お腹空いてます」
親友「わかりました。女将さん。おまかせ2つお願いします。あと、日本酒を常温で2つ」
女将「はい。おまかせ2つねー!」
僕「あの…実は…、話さないといけないことg…」
板「はいこちら!!!チュウトロとヒラメとおぉトロです!!!」
お寿司が3貫ずつ握られてくる。親友は一心不乱に食べている。
「……」
よし、先に食べよう。
中トロ、日本酒、ヒラメ、日本酒、大トロ、日本酒、海老、赤貝、日本酒、日本酒、ウニ、日本酒、穴子、日本酒、タマゴ、お茶、鉄火巻、お茶。
はぁ~♡
僕&友「ごちそうさまでした!」
女将「ありがとうございました♡またいらしてね~」
親友「生きていれば、また、参ります」
女将「あはは~!」
帰り道。
伝えなきゃ。帰りの電車でぜんぶ話そう。
えーと、借りていたお金を仮想通貨で運用していた件ですが、ちょうど昨日の今くらいの時間に渋谷で盗まれました。
渋谷関係ない。
姿の見えないハッカーにパスワードを突破され、僕が見ている目の前で画面の残高がゼロになりました。
そしてそれから警察に電話して、新宿警察署にも行ったんですが、被害届も出せなくて、でも大丈夫です。
いえ、ちっとも大丈夫じゃないですけど、僕が生きている限り、借りたお金は必ず返したいと思います。
心配かけてすみません。もう少しだけ、待ってくれると助かります。
という感じのことを2秒で伝えてしまいたい。
――――都営大江戸線
僕「あの…、」
親友「ん?」
(いでの・たつや) 1994年、兵庫県生まれ。元かけだし俳優、高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラ出演やアルバイト勤務を華麗にこなし、たまたま仮想通貨で得た大金を秒速で盗まれる。Twitterアカウント(@tatsuya_ideno)
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