ビットコイン被害者界の“エースの自覚”――「お金0.0」ビットコイン盗まレーター日記〈第12回〉
3日後
ス
「お疲れ様です。第1回のプレビュー添付しました。ご確認ください」
A
「連載開始日っていつでしたっけ?」
ス
「2月19日(月)16時公開で進めています」
A
「最高ですね。週明けが楽しみです」
盗まれてから1か月。
とうとう連載日が決まった。自分でも信じられないくらいのスピードで僕の人生が変わっていく。喜びとも驚きとも違うこの不思議な感覚を、ぜひとも誰かに伝えたい。
一緒に喜んでくれる人が思いつかないのは、僕に友達がいないのか。仕方ない。母に報告しよう。
母「はいもしもし」
僕「あ、俺だよ。俺。」
母「何? お金ないで」
僕「いや、違う」
母「また何かやらかしたん?」
僕「変なことではないです」
母「何なら?」
僕「なんと!僕の盗まれた話が連載することになりました!!!」
母「へー」
僕「反応薄ない?」
母「なんぼもらえるんよ?」
僕「家賃の…12分の1くらい…」
母「少ないやん」
僕「いや、額は少ないかもしれんけど、連載だよ!れんさい!」
母「へー。じゃ、仕事あるけ。ほいじゃあの。」
ガチャリンコ
素っ気ない。素っ気ない母と友達のいない僕。
うーん。Aさんに報告してみるか。
僕
「Aさん、早速母に連載の開始について報告しました!」
A
「おー。なんてゆってた?」
僕
「はい!原稿料すくないのぅって言ってました!」
A
「そうか。じゃあさっさと第2話の箇条書き送れ」
僕
「はい…」
僕が文章だと思って送っていたダイヤモンドは、Aさんから見たらカジョーガキに見えていたらしい。
A
「物事が動き始めたら、一喜一憂してる暇ないから。テキパキ進めるんや」
僕
「はい!」
A
「あ、ところでいまヒマ?お夜食探して徘徊中なんだけど、東京駅あたりまでくる?」
僕
「え!?は、はい!!!」
次号へつづく
(いでの・たつや) 1994年、兵庫県生まれ。元かけだし俳優、高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラ出演やアルバイト勤務を華麗にこなし、たまたま仮想通貨で得た大金を秒速で盗まれる。Twitterアカウント(@tatsuya_ideno)
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