「僕らが作品内で殺すのは善人ヅラした合理主義者」漫画家・新井英樹×俳人・北大路翼の無頼派対談
今春、テレビ東京系で放映されたドラマ『宮本から君へ』の原作を手がけ、秋には『愛しのアイリーン』の映画公開も発表されている漫画家・新井英樹氏。一方は新井氏の漫画『なぎさにて』の登場人物のモデルになった俳人・北大路翼氏。6月末日、漫画の舞台にもなった北大路氏がオーナーを務めるアートサロン「砂の城」にて、この二人の対談取材が行われた。両者それぞれ業界の風雲児として存在しながら、世間に受け入れられることに対して葛藤を抱えているのだという。この時代に感じる彼らの違和感とは……?
新井:このあいだのワールドカップ、西野監督がかつて批判を受けて徹底的に攻撃的なサッカーをするっていうところで監督人生決めたって話を聞いて、ちょっと感情移入しちゃった。俺、一番最初に『宮本から君へ』を書いた時に、売れてもないのになんでこんなに叩かれるの? って腹が立って。だったら、読者に嫌がらせしてやるっていうのがどっかで、ずーっと来ちゃってるから。
北大路:じゃあ、今日はとりあえずそのへんから入るか。ワールドカップはもう終わりなんだけどさ。まあ、テーマとしては怒りだよね。新井さんと僕の共通の話題はやっぱりこういう、世の中のバカたちに対する。
新井:もう負けろ!って思いながら見てたよ。どうせ本気で応援してない奴らがほとんどなんだから2、3時間、その日だけ悲しむフリして終わるんだろって。
北大路:ね、ちゃんとおまえ朝になったら会社行くんだろってな。行くなよ、ショックだったら会社ぐらい休めよ。なんなんだろうな、あの乗っかり癖って。本当に気持ちが悪いと思うね。
新井:たぶん、日本人は所属意識が強いんだろうね。これを応援しようとか、世間のそういう風潮に乗っかれる感覚が俺は全くわからない。本屋で「売れてます!」って書いてあったら、普通はそれ手に取らないでしょ。
北大路:人と同じじゃ嫌じゃん。ファッションもさ、みんなが同じ格好してたら違うもん着たくなるよね。今の女子学生なんて化粧まで真似してさ。
新井:みんな、個性だとか人と違ったことをやりたいとか言いながら、最終的には秩序を望むんだって。でも、その秩序って怖いのが、さぁ戦争だって雰囲気が出てくるとそれに乗っかることが秩序になるでしょ。俺はもう天邪鬼でいいから、みんながオッケーって言うことには全部、とりあえずノーだって言いたいの。でも、右でも左でもないって言うと怒る人がいるんだよね。俺、誰かが決めたジャンルやカテゴリーのなかに勝手に入れてくれるなっていうのがあるから。
北大路:カテゴライズは嫌だよね。僕もアウトローって言われるの本当は嫌なんだよ(笑)。はみ出るっていう意味でアウトローだったのに、また違う括りでまとめようとすんのかよ、みたいなさ。
新井:始めの言葉ですでに終着点を設けていて、そこにすべてを収束させようとする感じって気持ち悪いよね。だから、初めて翼さんに会った時のことって印象に残ってるの。それまで、20年間以上ほとんど家にこもってたから「おまえは最初から結論ありきで話してる。俺らはこの会話をどこに落としこむべきかわからないまま今、話してるんだ」って説教されて、それが聞きたかった!って言って。
北大路:そっからだよね、仲良くなったの。
新井:俺はそれがやりたくて表出るようになったんだよ。結論ありきっていうのは自分がわかってる気になってるからで、わかんないから喋るってのでいいじゃん。数秒前と真逆のことを言うのだってありでしょ。今のSNSって過去の記録も残っちゃうから、こいつ今、こんなことやってるけど前は違うことを言ってた!とか騒ぐけどさ、いやいや、おまえらだって人間の成長は認めるでしょ? って思うんだよ。
北大路:今のタレントだとか昔の発言拾われて、叩かれてるのを見ると可哀想になるよね。このあいだ面白かったのがさ、松本人志が自分に甘いって叩かれてた時に、あんなに自分を鍛えてる人が甘いわけがないって擁護してる人たちがいて、その論はどういうことなの? って。ほら新井さんも昔、体鍛えてたでしょ。
新井:あれね、別に全部やれとは言わないけど、できれば若いうちに本を読んだり運動もすればいいと思うの。若い頃に肉体の限界を知っておくと、年いった時にもう一回体鍛え直そうかなって運動をしても、もう昔みたいにはいかないことがわかるから。ところが若いうちに頭だけ使ってた人は、それでひとかどの人物になった後に体を鍛えだすと、自分は頭も使えるし体もこんなにすごいんだって勘違いしちゃう。本を読み過ぎても何かをわかった気になってバカになるし、体を鍛え過ぎてもバカになるからね。
北大路:インプットばかりの人は一切救われてないからな。人間のことをあんなに理解しているのに、てめえは不幸なことに一切幸せになってない。なんでもやりすぎると足元が見えなくなっちゃうのね。
新井:抽象的なものを具体的な言葉で表すことなんてできるわけがないんだから、積み上げた論に破綻がないっていうのはその時点で大嘘なんだよ。で、その大嘘をさもこれが人間の人生の答えだと鵜呑みにしちゃう人がいるから、真剣に書いた作品にも笑ってくださいねって注意書きを書いたほうがいいと思ってる。
北大路:本当にね。最後のあとがきに、やっぱウッソー!って(笑)。
根底にあるのは世の中のバカに対する怒り
【関連キーワードから記事を探す】
「不老不死を目指してます」東大在学中に起業で6億円を手にし、大阪万博にアートを出品…28歳“天才”の頭の中
「新歓で受けた悪質なドッキリ」にげんなり…国立大を1年で休学した男子学生が、東京藝大に通うまで
「歌で世界に光を届けたい」海外を席捲する日本人女性シンガーの“揺るがぬ信念”
10年1万本のうち「満足いくのは十数本」。世界的オカリナ奏者68歳が語る、妥協しない考え方
ユニクロ「UT」1500円で買えてしまう最高峰のグラフィックTシャツ
アウトローからオタクまで。俳句・川柳界の新潮流が、疲れた現代人の心を癒す
「僕らが作品内で殺すのは善人ヅラした合理主義者」漫画家・新井英樹×俳人・北大路翼の無頼派対談
文系高校生の熱い夏!! 俳句甲子園って何だ?
この記者は、他にもこんな記事を書いています






















