素人が自給自足の田舎暮らしに挑戦するとどうなる? 農業生活漫画「ぼっち村」第2巻緊急発売!
――なかなかの地獄ですね……。そんななか、最近は田舎暮らしに憧れる人も増えているそうですが、長年『ぼっち村』で暮らしてきて、そういった移住者を見かけることは多いですか?
市橋:コレは場所によりますね。やはり都心から田舎に憧れて移住する方は、環境のいい、風光明媚な土地を求めますし、本当に寂しい寒村には、移住者もあまりおりません。何度か転居した『ぼっち村』ですが、観光地に近いような土地には、やはり移住者の姿もありましたし、過疎化の一途をたどるような、不便な山奥には、殆ど移住者もいなかったりします。
また個人的には、昔からの住民より、移住者の方が交流しづらかったです。
恐らくソレは、移住者の方が自分の意志と考えをもってその土地に来ているので、周囲に合わせるというよりは、自分の好きなように生きる方が多く、そもそも交流を求めないタイプの方も少なくなかったからです。
同時に、やたらと積極的に地域興しなどを提案する“張り切り移住者”もいるのですが、そういった方こそ、ボクが一番苦手なタイプでした。
――『ぼっち村』のなかでも紹介されていますが、一般人が本格的な就農を目指す場合、何が一番大きなハードルになるんでしょう?
市橋:まずは農地法の壁です。農地は農家以外が売買や貸借をできないよう、農地法で定められてます。農地法を正規にクリアする場合、自治体にもよりますが、一般的に4000㎡以上を一気に借りて、すべてを耕作する必要があり、普通の人には無理です。また、その面積を耕作するには、農機具も必要になるので、初期費用もかなり掛かります。加えて一般的に農家の下で、数年修業しないといけないなど、個人での就農には、いくつもの壁があり、その道に進む環境の整備は進んでません。
――人生棒に振るぐらいの覚悟じゃないと手を出せないんですね……。
市橋:そして何より、ソコまでして就農しても、恐ろしく大変で、恐ろしく儲かりません。新規就農しようと、農業委員会に相談しても、きちんとしたところなら反対してくるくらいですし、兼業で、ほかの仕事での収入があることを勧められます。就農後5年間は赤字覚悟で、生活費を貯めておくように勧めるのが実態です。理想だけを追い求め、集荷さえできずに数年で撤退する方も多いようです。
――そんなハードルも乗り越えつつやってきたわけですが、『ぼっち村』で暮らしていくなかで気づいた、日本の農業がこうなればいいのにという理想はありますか?
市橋:上記の回答にも重なるのですが、とにかく大変で食えない。だからこそ代々農家の人間でも都心に出て、田畑は放棄地になっているのです。日本の農政はかなり歪で、先の農地法や、コメの減反政策、最近の種子法の改正などを見ても現在の農家にとっては、厳しかったり、おかしいことだらけです。ただソコを補助金に頼ってても、未来はない気がします。一番は、政治以上に、消費者がもっと農産物の価値に正しい理解を持つことな気がします。もやしの安さなんて、犯罪レベルだと感じますし何でもかんでも安いってだけでよしとしないでほしいです。
――たしかに、スーパーに行くと「野菜高いなあ」なんて思ってしまいがちですけど、作っている側からしたら、ギリギリなわけですもんね……。それでも第2巻に出てくる限界集落ではかなり長い間暮らしていました。
市橋:ひとつには、引っ越しに疲れたということもあります。でも2度の転居を経験(詳しくは第1巻をチェック!)して、自分のなかで田舎暮らしに慣れた部分はあると思います。色んなトラブルはありますが、そういうのにも慣れ、あまり気にしなくなりました。もちろん地域の住民との相性もあって、楽しくやれたという部分も大きいのですが、ココが最初だったら、やっぱり引っ越してたかもしれません! 土地の特性も大事ですが、田舎での暮らしそのものに慣れると、意外にどこでもいける気がします。
あとはその田舎でどんな生活がしたいか。畑がしたいならやはりいい農地が近くにあった方ほうがいいし。海が好きなのに山のなかでは暮らせません。
自称・崖っぷち漫画家。「敗北DNA」(KADOKAWA刊)、「漫画家失格」(双葉社刊)などモテない男や、生きづらい人間の群像漫画を主に描き、カルト的な人気を誇る。SPA!では'11年に「アラだらけ君」を連載後、田舎暮らしと農的生活を描く「ぼっちぼち村」を連載
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