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自称・未来からきたおっさんが唯一、的中させた“予言”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第27話>

おっさんの予言はほとんどデタラメだった。けれど……

「じゃあさ、なにか未来で流行ってるギャグを見せてよ」  もう忘れてしまったが、当時はファミコンブームとビックリマンブームがあって、そして何かのお笑い芸人のギャグが流行っていた。きっと未来の世界でも何かのギャグが流行っているのだろうと、質問した。  おっさんは困った様子だった。何かを考えこんでいる素振りを見せ、満を持して33年後の未来で爆発的に流行しているギャグを見せてくれた。 「コマネチ」  それは未来のやつじゃないだろ。ビートたけしがやっているやつだろ。  おっさんはちゃんとあのコマネチ特有のポーズで熱演してくれたのだけど、さすがにこれが33年後の世界で爆発的にブレイクしているとは考えられない。  僕がまた怪訝な眼差しを向けると、おっさんは焦った様子だった。 「今のは練習、練習、ここからだから」  そう言って、今度は両手を顔の高さぐらいところ掲げ、獣のように開いた手の平をこちらに見せた。 「グァム!」  熊みたいなポーズでそう言った。たぶんおっさんが必死に考えた33年後のギャグなのだろう。とても流行るとは思えない。33年後の人々のお笑いのセンスはどうなってるんだ。 「なにそれ?」 「すごいぞ、驚いた時とかにこうやってグァム! って言うのが流行るんだ」 「へー、グァムねえ」  そう言って僕もおっさんの仕草を真似た。 「とにかくさ、33年後の俺から見たら全てがちっぽけなことよ、安心して生きていきなよ」  気を取り直したおっさんは、そう言ってどこかに去って行った。  僕はなんだかそれがおかしくて妙に笑えてきて、そのまま走って家まで帰った。あのおっさんはなんだったのだろう。本当に未来から来た33年後の僕なのだろうか。一瞬だけそう思ったが、やはりおっさんが泣いている僕を慰めようと嘘をついたのだろう。  なぜなら、狭い街なのでその後も何度か、あのおっさんを見かけたからだ。時には立ち飲み屋で飲む姿を、時にはパチンコ屋の前を歩く姿を、時にはワンカップを販売機で買う姿を、いたるところで33年後の僕を見た。どうやら33年後の僕はなかなか未来に帰らないらしい。おまけにちょっとクズっぽい生活を満喫しているようだ。  あれから33年が経ち、2018年が終わり、2019年となった。僕はもしかしたら途方もない何かが巻き起こって33年前にタイムスリップするかもしれない。そう思って待機していたのだ。  もしそうなったら、本当に33年前の自分を励ましてやろうと思った。自転車ぐらいなんてことはない。友達だっていっぱいできる。そして、毎日楽しくおっさんとして暮らしていると。ただ、残念なことに僕がタイムスリップするはずの2018年は終わってしまった。  車は空を飛ばなかった。すごい未来は来ただろうか、多分きていない。グァム! は流行の兆しすらなかった。おっさんの予言はそのほとんどがデタラメだった。  ただ、子供のころに抱えていた悩みなんてちっぽけでどうでもいいことというあの言葉だけは当たっていたように思う。なにせ、今の僕はこんなにも楽しく生きているおっさんなのだから。  そして、なによりも驚いたのが、33年後の僕は、自転車にハマり、折り畳み自転車やクロスバイクなど、使っていないものも含めるとトータルで5台の自転車を所有しているという点だ。これには完全にグァム! だ(両手を熊のようにしながら)。  まだちょっとだけ、あのおっさんは33年後の僕だったんじゃないか。ほんとうにちょっとだけ信じている僕がいるのだ。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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