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第532回 4月25日「何もせずに3億かせぐ話」-3

・真夜中に電話が入った。僕に3億の儲け話を持ってきて、そして本当に30億振り込んできた、例のゲーム会社の役員からだった。 「大変なことになった。すぐに会いたい」 ・「例の話なんだけど、白紙に戻したい」 どういうことだ? 税務署に勘づかれたか? 「30億振り込んだよな、1年後に27億返してくれればいいと言った。しかしね、その話はナシだ。そんな余裕がなくなった。すぐに金を返してほしい。実は今うちの会社やばくてな。このままだとあと3ヶ月もたない」 ・あんなに儲かっていた会社がいきなりなんでそんなことに。 「社長が株にはまった。去年儲けすぎて、おかしくなってたんだろうな、やばい筋にけしかけられて、ど素人のくせに仕手戦に打って出た。会社の資金を根こそぎ注ぎ込んで、それでも足りずに借りられるだけ借り入れして、そして、けちょんけちょんに負けた」 ・「つまりな、あの30億、すぐにいるんだ。ないと会社は潰れる。だけじゃなく社長は東京湾に沈む」 「それはいいけど、最低限の作業が必要だ。いくつか書類を作っておかないと、税務署対策が……」 「何の書類だ」 「まず、ゲーム企画がぽしゃった事実を記録しておかなくてはならない。これは弁護士を立ち会わせた形で2社の議事録を作ればいいだろう。それから、こちらで3億使ったという記録を大急ぎででっちあげる」 「3億? なんのことだ」 「30億からこちらが抜く3億のことだ」 「いや、そのことなんだが、事情が変わった。30億は全額そのまま返してほしい」 ええええええええええええええええーっ!! ・ようやく僕は事の大きさを理解した。 「実はその30億も担保に入っているんだ」 「他社に払った制作費が借金の担保になるのかよ」 「とにかく、おたくに3億もあげる余裕はなくなった」 「おいおい、話が違う。この工作のためにこっちはもう1億近く使っている。それを丸呑みしなくてはならないということか」 「悪いが、痛み分けということにしてほしい」 なんという理不尽な話だ。 「返さないと言ったらどうする」 「予定では裁判をして、おたくが負けて27億返すって話だったな。その裁判で、うちは27億じゃなくて30億を主張する。そして勝つ。それだけだ」 ・僕は思わずうめいた。しくじった! ・そう当初の予定では、税務署に疑われないようにするためだけに、出来レースで裁判をすることになっていた。その結果として僕は30億の中からしぶしぶ27億を返す、と。負けることが前提だった。 ・だから僕は、その会社との契約の中に「1年後に発注元が納得するクオリティーに達していなければ全額を返金する」という一文を認めてしまっていたのだ。 ・さて、それから僕はゲーム会社役員氏を着信拒否にした。役員氏は僕の家まで来て、閉めきった玄関の外からののしった。逃げ回っても意味がないぞ。無駄だ。悪あがきはやめろ、裁判になったら結果は見えている、と。 ・すぐに僕は告訴された。しかし僕は不在のふりをしてその訴状を何度も受け取らず、裁判の開始を阻んだ。相手はいらだち、最終的には特別手続きで裁判を強行した。しかし最初の裁判日に僕は病気を理由に延期を申請した。次の裁判日にも。3回目には認められなかったが、必要書類を忘れたことにして、再審理に持ち込んだ。 ・相手は相当怒っていた。お前のやってることはただの時間稼ぎだ。結果は見えている。30億返せ。返せったら返せ。 ・その通りだった。裁判の結果は見えていた。30億返すことになると、僕は知っていた。しかし、その前提でずるずると時間稼ぎをしていたのだ(何のためだか、わかりますか)。 (つづく) 作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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