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ユニクロの時価総額は世界第2位…その強さの根拠を数字で読み解いてみた

「現金が多い」のは、なぜ凄いのか?

 最後に、同社の財務諸表(略して“BS”=Balance Sheet)を見てみます。  資産のうちの約50%が現金及び現金同等物で占められていることがわかります。これ、かなりすごいことなんです。  現金が多い企業のことを「キャッシュリッチ企業」と呼びますが、ユニクロの財務諸表はまさにそれ。その凄さの理由はおわかりでしょうか。  一つ答えを言うならば、黒字が出ても、無理にお金を使おうとせずに多少の税金を払ってでも会社にお金を残している点が挙げられます。現金があれば、会社が潰れにくいことは、以前マクドナルドの回で解説しました。  ただし、アパレル業界は季節やトレンドにより売れ行きが大きく異なるため、安定して現金を残し続けるのが難しい業界です。一般に、現金預金に対し、売上債権(売掛金・受取手形など)、棚卸資産(在庫・仕掛品など)の割合が低いほどキャッシュが貯まりやすい構造になります。  ユニクロは、この2つがしっかりしているのです。  売上債権は、取引相手をよく見極め、期日を決めてきっちり回収しなければ減らせません。しっかりお金を回収できているんですね。棚卸資産は、月ごとの売上を正確に予測し、そこから適正な在庫量を維持しないと減らせません。ユニクロは、商品の情報管理を徹底することでロスを防げていることはすでに説明しました。

ユニクロは1980年代のトヨタだ

 従来、アパレル業界と言えば「嗜好品」の側面が強い業界でした。アパレル業界と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、「おしゃれ」ではないでしょうか。おしゃれな服は、高い。買いにくい。お店に入りにくい。そして着る人を選ぶ。そんな敷居の高いイメージはありませんか?  そんなアパレル業界の歴史の中で、私たちの生活圏まで降りてきて、安くて、頑丈で、トレンドも押さえるというマスに訴求する商品を生み出し続けてきたのがユニクロです。徹底的に市場のニーズだけに目を向け、生産の効率化を図る。そして国内だけにとどまらず、海外に目を向け、現在は海外利益が国内需要を上回る。  そう。これって、ある業界内における日本企業と一緒と気づきませんか? もうおわかりでしょう。正解は、自動車業界です。  特に生産工程の効率化と海外マーケットに目を向けたトヨタは、かんばん方式と呼ばれるシステムで1980年代に大きく世界の自動車業界において頭角をあらわしました。現在のトヨタは、欧米市場を主戦軸としながら、グループ会社であるスズキはインド、スバルは北米市場を掴んでいます。  トヨタは、乗る人を選ぶようなクルマのコンセプトを打ち出すよりも、ニーズに応えたクルマを出し続けてきたと言われています。アパレル業界の常識にとらわれず、トヨタのように効率化とグローバル化を推し進めるユニクロの姿は、もはや同社のライバルがAmazonである大きな根拠を示していると言えるでしょう。  PLとBSを見るだけで、ここまで企業のイメージは変わるもの。  経営者の資質のみに着目するのでもなく、PLとBSという無機質なグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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