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第544回 10月30日「ゲームとしてのコーヒー」

・僕は喫茶店を経営していて、カウンターに立ち、毎日コーヒーをいれている。 ・条件を微妙に変えながらいれ、香りと味の変化を確かめては記録している。この作業はものすごく面白い。そしてこの「面白さ」は、きわめてゲーム的なものだ。ゲームが好きな人に、コーヒーという趣味は薦めやすい。 ・コーヒーとゲームの類似点は、パラメーターの変化によって結果が如実に変化していくことの快感にある。パラメーター要素は、大まかに分けると以下の4つ。 1.豆の種類 2.焙煎の深さ 3.粉砕の細かさ 4.抽出の温度 ・味について言うと、例えば苦味と酸味は相反する要素だ。これを、それぞれのパラメーター設定によって変化させることができる。つまり、1.もともと酸味の強い豆を 2.浅煎りにして3.粗く挽いて 4.ぬるめのお湯でいれれば ……ものすごく酸っぱいコーヒーになるわけである。同じ豆でも、深煎りにすれば苦味は強くなり、そのぶん酸味は減る。細かく挽いても、湯の温度を上げていっても、同様に苦味は強まる。それらの条件は、どの豆の配合割合が何%で何℃の熱で何分何秒、といった正確な数字でしっかりと固定することができ、その通りに再現すれば必ずまた同じ味が出る。偶然性は極めて低い。 ・要素は他にもいろいろあるが、全て同様だ。つまり数字ではっきり設定を決めることによって、味わいや匂いを狙い通りに、自在にコントロールすることができる。微妙な味わいを出すには、数値の小数点以下を伸ばしていけばいいのだ。 ・匂いや味わいを言葉にしようとするととても情緒的なものになるが、それはきちんと見極めることによって数値化できることなのである。面白いゲーム、気持ちがいいゲームの「面白さ」「気持ちよさ」の正体が、プレイしているうちにその裏側の数値設定、パラメーターデザインの巧みさとして見えてきて、感嘆させられることがある。それに近い。 ・というわけでゲームに興じるのと同じ気分で日々カウンター内で延々とコーヒーを作り続けている。それが楽しすぎるからたいていは店の入口を締めきって、客が来ても無視している。ごめんなさい。 (↑僕のカフェが登場するゲームがあります=『デジモンストーリー サイバースルゥース ハッカーズメモリー』/バンダイナムコエンターテインメント) 作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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