突き詰めると、だったら何故カラオケスナックに飲みに来てるんだという話になってしまうのだが、歌わずとも、隣のお客と話したり、我々店員と話したり、ごはんを食べたり、楽しみ方はいろいろある。あるのだが彼には何もない。 　宝井くんっていうのはほんとに変な人で、例えば「久しぶり！元気だった？」と訊けば「元気でしたか？」と返すし、「連休何してたの？」と訊けば「連休何してたんですか？」と返す。オウムか。誇張じゃなくて本当に質問を全部そっくりそのまま質問で返してくるので、本当は人じゃなくて鳥なのかもしれない。そんでもって、周りのお客には一切自分から話かけないし、お通し含めて食べ物はほとんど食べないし、トイレに行く時は一体何をそんなに警戒しているのかわからないが、財布からスマホから持ち物全て持ってゆく。 　最近では、漠然とした質問でオウム返しされないように「出張で行った○○県では何が一番美味しかった？」などと具体的な質問をしているようにしているが、それでも「あんまり食べてないっすね」という会話を発展させる気ゼロの回答が返ってくるので、いい加減面倒くさくなりかけている。 　もしかして一人で静かに飲みたい人なのかな、とも思ったこともあるけど、一人で静かに飲みたいのならばまぁそのへんのオーセンティックなショットバーとかに行けば良いのである。一人で飲みに来ているけど会話もさほど求めていなくて、そして大嫌いなカラオケの鳴り響くカラオケスナックにわざわざ「今から行きます」なんて連絡してまで飲みに来て、そして誰かにカラオケを勧められればカラハラだと主張する。 　考えれば考えるほど何がしたいのかよくわからなくて、「もうっ！わたし彼が何を求めているのかわからないのっ！」ってドラマみたいなセリフを吐きたくなるんだけども、時たま、殆ど何も相手しちゃいないのに「今日はありがとうございました」みたいなLINEが来たりするので、本人が良くて来てるんならまぁもういいか～みたいな感じに落ち着いているのである。 　そんなこんなで、今夜も変わった人がたくさんいる場末の酒場ですが、来年には店内での喫煙がどうのこうのと面倒くさいし、カラオケまでハラスメントになっちゃう生き辛い世の中で、面白おかしくやってるばかりも難しいけど、それでも面白おかしくやっていこうと思うのでした。＜イラスト／粒アンコ＞（おおたにゆきな）福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは ＠yukina_otani