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スナックで嫌われる老人と愛される老人、両者の明暗を分けたものは…?

 スナックにはびこる老人はすべて鼻つまみ者…かといえばさにあらず。醸し出す人格と雰囲気で愛される老人というのも確かに存在するのだ。では、嫌われる老人と愛される老人の違いは? いつも不機嫌なじいさんと温和なじいさんが登場する現代版『こぶとりじいさん』。同作品では不機嫌なじいさんは鬼に嫌われ両頬にこぶをつけられてしまうが、このお店では果たして…。

第十夜 さみしい奴らPart.5

 ある日の営業中、相も変わらずすっかり泥酔して何を言っているのかわからないコオロギに似ている耄碌老人・トーククラッシャー中村(第一夜参照)からデート(?)に誘われた。 「ユキナ、今度メシ食いに連れてってやる。雑司が谷のよぉ、ほら、あのよぉ、角にある〇〇って天麩羅屋。俺も最近食って美味かったんだよ。五、六千円はするんだけどよ。お前特別に連れてっちゃる」  うーわ、死ぬほど行きたくねぇ~と思いながら、一応、 「そうなんだぁ!最近天麩羅食べてないなぁ~♡(行かないけど)」  と笑顔で返して、一杯飲んだら確実に二日酔いになる悪質極まりない中村のブランデー、通称コオロギブランデーを飲み干した。これで翌日の死亡は確定、夕方まで息を吹き返すことはありません。 「俺、天麩羅って好きなんだよ。衣がサクッとしてよぉ」 「だよねぇ。美味しいよねぇ」  知らねぇ~~っ! 貴様が天麩羅好きとか心底どうでも良いんじゃ~~っ!二十二時頃早々に会計を済ませて店を出てくれてほっとしたと思ったら深夜二時にまた戻ってきた中村に辟易していると、姿勢よく水割りを飲んでいた隣の紳士が静かに言った。 「おい中村。その天麩羅屋、四年前にもう無くなったぞ」  しんとする店内。呆ける中村。噴き出しそうなわたし。肩を震わせるマスター。沙羅双樹の鐘の音。諸行無常の響きあり。 「お前の最近っていつの話だよ」  畳みかけるように言って、しれっとした顔でグラスを口へ運ぶ老紳士の名はイズさん。中村の幼馴染である。端正な顔立ちと長年の職人仕事で引き締まった身体は通りすがりの者を思わず振り返らせ、甘い声で歌う『恋人も濡れる街角』は聴く者の耳を孕ませ、一杯のみならず何杯でもウイスキーを飲ませる気前の良さはわたしを文字通り酩酊させる。彼の漂わせる色気はとても六十代半ばのそれとは思えなくて、そしてとても中村と同い年とは思えない。中村は七十代後半に見えて、イズさんは五十代後半に見える。
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「イズさんになら抱かれたい」
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