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若者よ、マイクを握れ!スナックでのカラオケ拒否はあり?

それって、カラハラ?

 ところが宝井くん、なのである。  そう。ちょろっと名前が出てきただけで二十行ぐらい放置されていた宝井くんなのであるが、彼のカラオケ嫌いはちょっと常軌を逸している感じがする。  ある時、酒の国の妖精こと桜田ちゃん(第三夜参照)が、宝井くんの隣の席になった。パッと見は感じの良いイケメンの宝井くんに、桜田ちゃんはすぐに食いついた。 「一緒に何か歌いませんかぁ~??」  マイクとデンモクをカウンターの上に滑らせつつ、自身も彼の方へとにじり寄っていくいつもの桜田ちゃんであったが、宝井くんはピン、と揃えた掌を向けてそれを遮った。 「や。大丈夫です。僕カラオケ嫌いなんで」 「苦手」でなく「嫌い」である。あからさまに険のある言い方だ。しかし出来上がっている桜田ちゃんはそれに気付かない。 「普段は何歌うんですかぁ~??」 「歌いません。社長に言われない限り」 「じゃあたまには歌っちゃいましょうよぉ~」  桜田ちゃんがぐいぐい行くほどに、宝井くんの顔は曇っていく。こちらも彼のカラオケ嫌いをわかっているだけにすこし冷や冷やする。そして待ち受けているのはこの一言。 「そういうのって、カラハラだと思うんですよね」  ハイ。出ました。僕たち店員も初めて彼に会ってカラオケを勧めた時に言われまちた。カラハラというのが人口に膾炙しているハラスメントなのかはよくわからないが、わたしとマスターは彼に出会って初めてこの言葉を知ったのである。ぽかんとする桜田ちゃんに、畳みかけるように宝井君は言う。 「だいたい、桜田さんは僕の社長じゃないですよね? 社長命令じゃない限り歌わないんで」  うんうん。そうね。カラオケは強制じゃないです。誰も強制していないし、歌うも歌わないも自由なんですよ。なんですけどもね。わたしは思うのです。ここ、カラオケスナックなんですよ?? あちこちにマイクがあって、あちこちにデンモクがあって、そこらじゅうで歌が鳴り響いている環境で、それでカラオケを勧められることにカラハラだとかそんな目くじら立てるってどうなの?? そういうの織り込み済みで来ているんじゃないのかい?? カラオケスナックでカラオケを勧められるのがそんなにも我慢できないのかい??
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カラオケがすべてじゃないけれど…
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