更新日:2023年05月13日 10:35
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パチンコの行列に並ぶおっさん達の間に勃発したポケモンバトル――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第73話>

それはまるでおっさんのポケモンバトルであった

 そこからは、その二人と僕とで列の最後にならぶ骨肉の争いが展開されることになった。ナチュラルに最後尾になろうと時間ギリギリにやってくるチキンレースが展開され、さらに並んだ後もトイレにいくだとかしてなんとか最後尾に回ろうとする。  それだけに留まらず、行列が進み始めても靴紐を直すふりとかしてなんとか最後尾にまわろうとする。とにかく、一桁が欲しかった。そのために最後尾に回りたかった。  けれども、その気持ちが行き過ぎたのか、僕以外の二人がいかに最後尾に回るかで小競り合いになり、最終的にスラムダンクで桜木がリバウンドの練習をした時みたいな、「スクリーンアウトだ、桜木!」みたいな状態になってしまい、一色触発の状態になってしまった。  「てめえ、ふざけてんのか?」  「ああん?」  なかなかバイオレンスな感じだ。  「殺すぞ?」  「殺してみろや?」  かなり血気盛んで、そんな言葉も聞かれた。ただパチンコ屋の入場順番を決める抽選を最後に受けるか受けないか、それだけのために殺す殺さない言ってるのだ。ツイッターだったらとっくに凍結されている。これがクズでなくて何をクズだというのか。  しかしながら、騒動はそこで終わった。バイオレンスの臭いを嗅ぎつけた店員が飛んできて間に入ったからだ。けれども二人の小競り合いは終わらず、  「テメー、最後に引くと良い番号出るってわかってんだろ!」  「テメーだって!」  と並んでいる全員に聞こえるように言っていた。重大な秘密をばらすんじゃない。  さらに小競り合いは続いていて、どうも片方の男が「俺は怖いお兄さんと知り合いなんだぞ」と威嚇しようと思ったみたいだった。  「おまえ、山本さん知ってんのかよ? 山本さんが知ったらお前なんてボコボコよ」  「誰だよそれ」  「チームXXXX(たぶんなんかのチーム名)の山本さんだよ」  「ああん? 知らねえよ。それなら俺だって田岡さんいけるからよ」  「だれだよ?」  「しらねえよ」  みたいな感じになって、どちらも虎の威を借りるクズ、みたいな感じで山本と田岡なるバックの存在を匂わせ始めてきた。この辺はちょっとした地方都市ならではというか、田舎特有の狭い村社会がある。  「じゃあ明日連れてこいや」  「おう、おめえもその山本とか言うザコ連れてこいよ!」  かなり殺伐とした感じになり、行列の面々は騒然となったのだけど、僕はワクワクしていた。  二人の口ぶりから言ってけっこう年上の後ろ盾を召喚して戦う、つまりお互いにおっさんを召喚して戦うことになりそうなのだ。これもうおっさんのポケモンバトルでしょ。ワクワクしてきた。
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最初から手負いじゃねえか
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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