パチンコの行列に並ぶおっさん達の間に勃発したポケモンバトル――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第73話>
―[おっさんは二度死ぬ]―
昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!
【第73話】ポケットモンスター おっさん・おっさん
この連載で何度も述べていることだが、パチンコ屋の開店待ちの行列には基本的にクズしかいない。
よく考えてほしい。パチンコとは基本的に負けるようにできているギャンブルだ。そうでなくてはあの豪華絢爛で派手な店舗や、一等地に燦然と君臨する店舗を維持できるわけがない。おまけに従業員の給料や、ほぼ毎週行われる新台入れ替えの費用を賄えるはずがない。
そのお金はどこから持ってくるかというと、やはり客からなわけで、一回あたりの勝った負けたの幅はあるだろうけど、長いスパンで見ると確実に客側が負けるようにできている。
その“ほぼ負ける”ギャンブルに、早起きして、寒空の中で、半分口を開けて並んだりするのだ。財布の中の金を失うために並んでいるのだ。これが狂気の沙汰でなくて何を狂気の沙汰というのだろうか。
その狂気の沙汰に身を委ねる面々は相応にクズでどうしようもない。けれども、各々の中では整合性が取れていたりして「自分だけは勝てる」「カメラとか金のかかる趣味に比べればパチンコに負けるのなどかわいいもの」「旅行に行くよりは安い」「まあ暇だしね」と無理矢理に納得して並んでいるのだ。むしろ何かを見ないようにしている節すらある。
厳しいことを言わせてもらったが、僕も同じようにクズで、パチンコ屋の行列に並ぶ一人の男だ。そして、このクズしかいない行列にもいろいろなタイプのクズがいるのだなあと気が付いてしまったのだ。
横暴に振舞うおっさん、絶対に仕事をさぼってきている背広姿のサラリーマン、半分ボケている爺さん、言葉を発しない陰の者みたいな若者、大学生ノリなんだけどいまいちなりきれていない若者、行列の様子を日刊SPA!連載のネタにしようと舐めまわすように眺めているおっさん、みんなクズなんだけどそのクズの中にも色々あるんだなあと考えると妙に感慨深い。
そんなクズたちの行列の中で、クズっぽい騒動が起こった。
パチンコ屋の開店待ちの行列に並ぶという行為は、もちろん早く店に入りたいという狙いがあるわけだ。狙っている台か機種があって、誰かに取られる前に座りたい、その想いだけは全員が共通している。
そうなると、並んだ先にある「入場順抽選」これが重要となる。
多くの店では、「先着順による入場」を行っていない。それをやると頭のおかしいやつが前の日の夜とかに並び始めて収拾がつかなくなるからだ。ほとんどの店が、並んだ客を対象に入場順を決める抽選を行う。
その店に並ぶ人数にもよるが、やはり入場順一桁、1番から9番までは花形だ。ここを引ければだいたい狙いの台に座ることができる。並んでいるクズ全員が目指す栄誉だ。
ある日、僕はその入場順抽選に重大なバグがあることに気が付いた。
この店は、けっこう並ぶ人数が多くて、100人くらい並ぶ。つまり、一桁をゲットできる確率は1/10で10%だ。その100人をパソコンによる抽選で選んでいくのだけど、どうも最後に引いたやつの番号があまりに良いのだ。
100人並んだ場合、最後の100番目に引いたやつの番号がかなり良い。普通に考えて10%の確率のはずなのに、40%くらいの確率で一桁を引き当てているのだ。これは抽選のプログラムに重大なバグがあるのではないか。
まず店側は100人並んでいた場合、クジが足りなくなることを危惧して110人並んでいるとプログラムに入力する。これで1番から110番までの番号が抽選によって出るはずだ。これは並んでいる人数以上の番号がでることからも確実にそうだと思う。
問題はその先で、おそらく、序盤ほど良い番号が出にくくなっているのだと思う。店側が抽選を導入するのは「早く並べばなんとかなる」みたいな事態を避けるためだ。早く並ばれると近隣住民の迷惑になるからだ。
つまり、ちょっとプログラムを弄って、最初に引くほど良い番号が出にくい状態にしている。基本的に並んだ順に抽選するので、早く並べば並ぶほど損する形だ。おそらく最初は10%より低い、5%くらいの確率かもしれない。
そうなると、行列を最後まで消化したときに良い番号が残ることになる。これは実にもったいない。せっかくの良番が誰の手にも渡らないのだ。そこで、最後は残ってる番号の中から良い番号を吐き出すわけだ。だから最後尾に良い番号が出やすい。
そのつもりで行列を観察していると、やはり最後に引く奴は「8」とか「4」とか良い番号だった。なので、自分もわざと時間ギリギリに行って最後に引いてみたのだけど、やはりいい番号で、6番だった。仮説が確信に変わった瞬間だった。
同じクズの中でもこういうバグに気が付く僕は特別なクズでは? みたいに自分の中で折り合いがついてきた頃、この事象に気が付いた別のクズが二人いた。
わざと最後に抽選を受けようとする僕の行動が不自然だったらしく、最後に何かあるのかと注視していたら、良い番号ばかり引きまくるものだから、俺も最後に引くぞ、となったようだった。
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri)
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『pato「おっさんは二度死ぬ」』 “全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"―― |
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