更新日:2023年05月07日 13:58
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コメダ珈琲で、すべらない話をさせられすべり続けた話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第72話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」

【第72話】わけのわからないこと

 コメダ珈琲店にいる。  ボックス席の向かいに座る見事なまでにハゲ散らかしたおっさんは、茶色いおしぼりで顔を拭いている。いいや、それどころか首筋とかまで拭き始めた。もしかしたら入浴がわりくらいに考えているのかもしれない。そんなおっさんとコメダにやってきたのだ。 「コメダに行ってみたい」  クズどもが集まるパチンコ屋の開店行列で、名前は知らない、けれども顔は知っているという感じの常連のおっさんがいて、その彼がそう言っていた。  そんなもの勝手に行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、そういうわけにはいかない。おっさんにとって行ったことのない飲食店は、魔境に近いものがあるのだ。  行ったはいいものの店内にはラッパーみたいな若者しかおらず、ドラッグが流通しているだとか、無法者と化した若者によって有り金全部奪われるとか、どう考えても消化しきれない脂っこいものしかメニューにないとか、よく知らない飲食店でそういう状況に陥るのが怖いのだ。だからおっさんは知っている店にしか行かない。 「いつもコメダ珈琲で仕事していますから、連れて行ってもいいですよ」  僕がそうやって申し出るとおっさんは大喜びした。 「こんなクソみたいな店に並んでいる場合じゃねえ、さっそく行こうぜ!」  おっさんはそう言った。ここまで自己中心的な人もなかなかいない。並んでいたんだからさあ、せめてパチンコ打っていこうよ。  こうして僕はあまり仲良くもない、名前も知らないおっさんとコメダ珈琲にくることになったのだ。
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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