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コメダ珈琲で、すべらない話をさせられすべり続けた話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第72話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」

【第72話】わけのわからないこと

 コメダ珈琲店にいる。  ボックス席の向かいに座る見事なまでにハゲ散らかしたおっさんは、茶色いおしぼりで顔を拭いている。いいや、それどころか首筋とかまで拭き始めた。もしかしたら入浴がわりくらいに考えているのかもしれない。そんなおっさんとコメダにやってきたのだ。 「コメダに行ってみたい」  クズどもが集まるパチンコ屋の開店行列で、名前は知らない、けれども顔は知っているという感じの常連のおっさんがいて、その彼がそう言っていた。  そんなもの勝手に行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、そういうわけにはいかない。おっさんにとって行ったことのない飲食店は、魔境に近いものがあるのだ。  行ったはいいものの店内にはラッパーみたいな若者しかおらず、ドラッグが流通しているだとか、無法者と化した若者によって有り金全部奪われるとか、どう考えても消化しきれない脂っこいものしかメニューにないとか、よく知らない飲食店でそういう状況に陥るのが怖いのだ。だからおっさんは知っている店にしか行かない。 「いつもコメダ珈琲で仕事していますから、連れて行ってもいいですよ」  僕がそうやって申し出るとおっさんは大喜びした。 「こんなクソみたいな店に並んでいる場合じゃねえ、さっそく行こうぜ!」  おっさんはそう言った。ここまで自己中心的な人もなかなかいない。並んでいたんだからさあ、せめてパチンコ打っていこうよ。  こうして僕はあまり仲良くもない、名前も知らないおっさんとコメダ珈琲にくることになったのだ。
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なぜか「面白い話」を要求される
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