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締め切り直前に駆け込んだサイゼリヤで、耳に飛び込んできた衝撃――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第70話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第70話】サイゼリヤのイカリ  大阪、梅田。言わずと知れた関西の中心地だ。そこから伸びる東通り商店街、そこからさらに少し外れた場所、そこにはいくつかのオフィスビルとラブホテルが建ち並んでいた。そんな場所をトボトボと歩く僕の姿があった。  その日はこの日刊SPA!連載「おっさんは二度死ぬ」の締切日だった。  大阪にいようがロシアにいようが、世界中どこにいようが変わらずやってくる、それが締切りだ。本当にロシアの空港で書く羽目になったこともあるし、みんなでサウナに来ているのに、僕だけ休憩所で書いていたこともある。それが締切りというものだ。 「くっそ」  僕は落ち着かない気持ちと焦る気持ちを抱えていた。早く書かねばならない。早いことどこかのコワーキングスペースにでも駆け込んで原稿を書かなければならない。その事実が気持ちを逸らせていた。  できることならコワーキングスペースか静かなカフェで執筆活動といきたい。なるべく落ち着いた環境で書きたい。どこかそういった場所はないかと街をさまよっていたのだ。  グーグルマップで「コワーキングスペース」で検索してみるとドスドスドスッと何本かのピンが刺さった。ただ、あまり近場には存在しておらず、ほとんどがやや距離がありそうな場所にあるようだった。いずれの場所もそこまで移動するのはなかなか厄介そうだ。  梅田での移動はよそ者にとって難易度が高い。めちゃくちゃでかい道路が行く手を阻み、ビル内の通路や、難易度の高いRPGのラスボス前ダンジョンみたいな地下街など次々と登場してくる。彼らは完全に移動させない気概できてやがる。とてもじゃないが目的地に辿り着ける気がしない。  そういえば、もう何年も前に、ネットで知り合った女子大生と梅田で会う約束をしたものだが、彼女は「ちょっと今、道に迷っている」という言葉を最後に通信が途絶えた  もしかしたら今も彼女は梅田の迷宮(ラビリンス)で迷っているのかもしれない。決して終わることのない迷宮の道を歩いているのかもしれない。そう思うと胸が痛む。梅田とはそれくらい難易度の高い街だ。    仕方ないので、店名からやや怪しげな感じがするが、いちおうはコワーキングスペースでありそうな近場のピンに向かった。  到着すると、怪しげすぎて潰れていた。完全に別の店舗に変わっていた。もうこうなると、完全に締切りに間に合わなくなる。仕方がないので命からがら、近くのファミレスに飛び込むことにした。それがサイゼリヤだった。それは完全に不本意な選択だった。
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パソコンの充電切れに焦っていた僕の耳に入ってきた気になる会話
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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