次の日、もう抽選順番なんてどうでもよく、とにかくおっさんポケモンバトルを見たくて行列に並んだ。 　始めに、山本さんというポケモンを従えて男がやってきた。一同がそのポケモンに注目する。 　「よ、よわそー」 　山本さん、普通のおっさんだった。とにかく普通のおっさんだった。おまけにヒョロヒョロだった。四角い銀縁メガネだし。 　「チームXXXX（たぶんなんかのチーム名）の山本さん知ってんのかよ？」って触れ込みだったが、そのチームXXXX（たぶんなんかのチーム名）、俳句の会とかそういうのじゃないの。彼はこの山本さんに何を見出して喧嘩に引っ張りだしてきたんだろうか。 　「で、どいつ？」 　「まだ来てないみたいです」 　そんな会話をしていたが、この山本では田岡に勝てないと思った。もう1人が連れてくる田岡はぜったいにコワモテだ。この山本じゃ勝てない。 　そして、しばらく間をおいてもう一人の男、田岡がやってきた。そして行列の面々に衝撃が走る。 　「こ、こっちも弱そう～」 　行列みんなの総意だった。 　田岡も見た感じにそこまで強くなさそうなのだけど、なにより、足にギブス巻いて松葉杖だった。最初から手負いじゃねえか。こんなの俺でも勝てるわ。 　けれども、山本も田岡も頼られた以上は引き下がれない。激しいにらみ合いが始まった。ついにポケモンバトルだ！ 　「やっちゃってください田岡さん！」 　「楽勝ですよ、山本さん！」 　ポケモントレーナーの二人も気合十分。いよいよポケモンバトルがはじまる！ 　「てめえ、ふざけてんのか？」 　 　「ああん？」 　なかなかバイオレンスな感じだ。 　「殺すぞ？」 　「殺してみろや？」 　しかしながら、威嚇して睨み合うばかりで全くポケモンバトルに発展しない。そうこうするうちに騒ぎを聞きつけてきた店員が飛んできて二人を引き離した。というか、飛んできた店員が一番屈強だった。 　山本と田岡は引き離されつつも罵倒し合ってて、 　「テメー、木下さん知ってんのか？」 　「てめー、俺が吉永さん呼んできたら速攻で殺されんぞ」 　と、ポケモンがポケモンを召喚しようとしていたので、さすがにもういいわって感じになっていた。このパターンで行くと、召喚するほど弱くなるので次はヨボヨボの爺さんがくる。 　このパチンコ屋の開店待ち行列にはクズしかいない。けれどもクズの中にもいろいろあって様々なタイプのクズが並んでいる。もしかしたら一様にクズだとは言えないのかもしれない。 　けれども、たまたま起こった二人の喧嘩により「最後尾に引くと良番を取れる」というバグをばらされてしまったので、並んでいる全員が最後に引こうと画策し、どうぞどうぞと譲り合い、スクリーンアウト、と抽選が成立しなくなってしまった。それを考えるとやっぱり一様にクズなんだなあと思う。 ロゴ・イラスト／マミヤ狂四郎（@mamiyak46）テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」（扶桑社刊）が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である　読みたくなる文章の書き方29の掟（アスコム）」が発売。twitter（@pato_numeri）