更新日:2023年05月15日 13:31
スポーツ

同情するならカネをくれ! 落水失格が招いた規定変更 ’94年全日本選手権・金子良昭<江戸川乞食のヤラれ日記S>

モンキーターンの危険性と落水失格

平成6年(’94年)10月12日 SG第41回全日本選手権競走 12R 優勝戦 1 金子良昭 29歳 A1 静岡 2 関 忠志 43歳 A1 岡山 3 新良一規 38歳 A1 山口 4 植木通彦 26歳 A1 福岡 5 服部幸男 23歳 A1 静岡 6 北川幸典 31歳 A1 広島 (年齢・級別は当時・県名は所属支部)  そんな金子は準優戦も1号艇から後続の混戦をしり目に押し切り1着。優勝戦1号艇を確保した。 「いやぁ、びっくりした。40歳超えた関までターンマークでケツを持ち上げるとは思わなかったぜ」 「ああ、おかげで優勝戦が若手ばっかりにならないで済んだ感じだな」 「やっぱりSGを荒らしてるベテラン勢も勝てるとわかればいままでのスタイルを平気で捨てられるってことか」 「しかし、今日に限って風が吹くとは。常滑の波はヘタすると江戸川よりタチ悪いからな。植木なんかゴメンナサイするんじゃねぇか?」  優勝戦のファンファーレ、一斉にピットを離れる6艇。事実、先日まで穏やかだった競争水面がこの日は朝から台風接近の影響でざわついており、優勝戦開始の頃には風速6~8メートルほどの風が巻いていた。  この頃の常滑競艇場は、まだ中部国際空港建設のための埋め立てが始まっておらず、1マークからバックストレッチ側で伊勢湾とすぐ隣接する形になっており、潮の干満や風の影響をモロに受け、波水面になりやすい状態であった。  それを警戒したのか、金子は関に1コースを奪われてしまい、213/4/56。インを奪われた金子は.08のトップスタートを切り、関の進路をふさぐようにツケマイを打つ。 「金子! お前のモーターなら関を差せる、内側開けるな!!」  普段の金子なら前ヅケで1コースを取られても、ターンスピードの差で余裕で差し切れるはずだった。  にもかかわらず、金子はツケマイに打って出る、そして確かに関をツケマイに沈めたのだが……そんな金子の小さなミスを見逃さなかった選手がいた。3コース3号艇の新良をまくり切った波が苦手なはずな4号艇植木がそれでも全速で控えめながらモンキーターンで関の内側を差しぬけていく。そしてそのまま植木は1周2Mで金子を弾き飛ばし、早くも1着を確保する。  植木をマークしていた6号艇北川との2着争い。しかし、2周2Mの旋回中に北川の引き波にひっかかり、その衝撃で乗っていたボートから落ち、身体が完全に水没してしまう。しかしハンドルから手が離れていなかったのか、それとも何か超人的な体力を発揮したのか、再びボートに乗りレースを続けた。  結果、植木が波水面をものともせず、植木がSG2度目の優勝、年内獲得賞金を1億円に乗せた。  金子良昭は落水によって失格。6着でももらえたはずの賞金700万円をフイにしてしまった。その時のセリフが当時流行していたドラマ「家なき子」で安達祐実が演じた相沢すずの名ゼリフ「同情するならカネをくれ」であった。  モンキーターンにより確かに旋回スピードが変わり、競艇も転換期を迎えた。同時にその高速走行の状態で180°の急旋回を繰り返すレースでは、不安定な状態で重心を移動させるそのモンキーターンは、一つ操作を誤ると簡単に舟が転覆したり、舟から放り出されてしまう危険性もはらんでいる。  それでも現在ではすべての選手がモンキーターンを会得している、そして一部では更なる高速旋回を狙える乗艇姿勢の研究と実践を行っている選手もいる。危険を顧みず、つまりは勝利のため。  金子良昭もまた、この時は勝利を目指し、そして敗れた。  しかし、悪いことばかりではなかった。  このレースの結果、施行者も選手側も動き、いままで解釈が曖昧に取れる落水失格に関するルールをモーターボート競走競技規程に明確な形で条件を明示するようになった。  また、選手会の方でも、この時の金子は1番人気を背負っており、SG優勝戦の売り上げに貢献していたことは間違いなく、にもかかわらず失格だからと言って賞金がゼロというのはあまりにも気の毒と話が進み、その2年後の平成8年(’96年)4月からSG優勝戦での転覆・落水事故に「敢闘手当」という形で当該選手に支給される規定に変わった。  その規定は早速、平成8年(’96年)5月の児島SG第23回笹川賞競走で倉谷和信が受けたのだが……。  レースは間違いなく金子にとっては悪夢と言えるに違いない。  しかし、その悪夢によってこの先何人もの選手が金銭的に救われることになったのもまた事実である。

12R 優勝戦 結果

1着 4 植木道彦 4コース .20 2着 6 北川幸則 6コース .18 3着 2 関 忠志 1コース .12 4着 3 新良一規 3コース .01 5着 5 服部幸男 5コース .48 落水 1 金子良昭 1コース .08 連単 4-6 2670円  14番人気 決まり手 抜き ※平成22(’10)年度以前の話題につき当時の名称にて表記しております ※本文中敬称略
シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中
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