更新日:2023年04月25日 00:22
スポーツ

世代交代の兆しとなったSG優勝戦での「恵まれ」。明暗を分けた2マーク<江戸川乞食のヤラれ日記S>

<江戸川乞食のヤラれ日記S>=名勝負と呼べない名勝負?・3=  G1初優勝の決まり手が「恵まれ」という選手は意外に多い。記憶からすぐに出てくる茅原悠紀や渡辺浩二、最近では平成26年(’14年)にボートレース戸田で行われた、それまでの新鋭王座決定戦を再編した「GI第1回ヤングダービー」での桐生順平、平成27年(’15年)クイーンズクライマックス優勝戦の川野芽唯などが記憶に新しい。  だが、SG初優勝が恵まれという選手は、自分の記憶の中には1人しかない。  その選手とは松井繁である。  よくSG優勝戦フライングの例に出される、平成13年(’01年)年の住之江賞金王決定戦での田中信一郎の初優勝は、確かに山崎智也はFを切ったのだが、それでも山崎は1コースの田中をまくりきれなかったため、決まり手は逃げと公式に記録されている。  そして松井繁の場合、先述のSG初優勝がフライング欠場による恵まれではなく、先行艇の転覆失格による恵まれという更にレアケース。  実はこのレース、自分がことあるごとにブツクサ文句をいうレベルで記憶に焼き付いている、開催自体が名勝負でもあり迷勝負要素満載なSGでもあった。

世代交替か、それともベテランの進撃は続くか?

 笹川賞といえば、昔もボートレースオールスターとなった今でも出場選手のほとんどがファン投票で選ばれる「強さと人気を兼ね備えた選手」が集うSG競走だ。  当時、少しずつ登録番号3000番台の若手が台頭しはじめ、野中和夫を筆頭とする登録番号2000番台のスター選手たちの優位を脅かし始めていたのだが、今回の平成8年(’96年)5月22日に初日を迎えた児島競艇場での「第23回笹川賞競走」では、それら2000番台の選手たちが相変わらず注目を浴びていたのであった。  その中でも地元岡山支部の強豪選手である林通、貢兄弟など、ベテランの話題が中心に展開されており、3000番台選手の代表格である植木通彦、服部幸男、上瀧和則でもあくまで挑戦者的な表現で紹介されていた。  この頃の児島は全国的に見てもインが強い水面であり、インを主戦場にしているベテラン選手は多少深くなってもインを狙う傾向にあった。しかし、この節に関しては潮と風の影響、そして新ボートだったこともあってか、全体的にインを取りきっても逃げきれないというレースが目立った。  そのため、記者の取材に新ボートとモーターのセッティングに苦戦しているというような声も聞かれ、最後まで答えを出せずに大きな着を重ね、あるいはフライングや事故に散ってゆき、サバイバルレースのような様相を呈していた。  そんな予選の4日間は、ドリーム戦のメンバーにとっても例外ではなく、ドリーム戦を走った服部幸男、中道善博、野中和夫、今村豊、植木通彦、林通のうち、予選が終わってみれば、得点率1位で突破した服部と、楽勝とはいえないまでもそれなりに安定した走りで3日目までに完走当確を確定させた野中、4日目の勝負駆けをものにした植木の3人しか残れなかった。

波乱の準優戦、ノーマークの倉谷が台頭

 予選道中が大混戦だったこともあり、得点率上位で準優戦に駒を進めても楽に優出できるわけではなかった。  10Rでは圧倒的1番人気の野中が消え、11Rでは植木が消え、最後に残ったドリームメンバーは12Rの服部ひとりだけとなった。 平成8年(’96年)5月26日 SG第23回笹川賞競走 12R 準優勝戦 1 服部幸男 25歳 A1 静岡 2 林  貢 44歳 A1 岡山 3 倉谷和信 32歳 A1 大阪 4 松井 繁 26歳 A1 大阪 5 烏野賢太 28歳 A1 徳島 6 大嶋一也 38歳 A1 愛知 (年齢・級別は当時・県名は所属支部)  ほとんどの客の戦前の予想は、林貢か大嶋一也の前ヅケを抑えて服部幸男が1コースを死守して逃げきる、そんな展開を見ていた。 「ここまで本命筋が消えてくれると、このレースも服部を信じられなくなりそうだわ。前ヅケされて1コース取られたりしたら簡単に服部も消えるぞ?」 「それは確かに考えられるけど、誰が動く? 林か? 大嶋か?」 「動いて面白れぇのが倉谷だな、あんにゃろう。ここ一番って時には上瀧ばりにインを取りに来やがるぜ。ましてや優勝戦に師匠の野中がいねぇ、誰にも遠慮する必要がねぇだろ?」 「ああ、たしかにな。あとで揉めても野中にケツ拭いてもらえるか?」 「野中がそこまで面倒みるか知らねぇけどよ。とりあえず俺ぁ、倉谷から頭流して勝負するつもりだ」  果たして、レースはオケラの戯言通りに倉谷がインを主張し、服部は2コース回り、コース争いに参加しなかった松井繁が6コースに回り進入は312564。  倉谷は.09のスタートを切ってインから押し切り勝ち、続いて大外6コースからまくり差しで内側艇を仕留めた松井が2着を確保。  1コースを奪われた服部は4着に沈み、ドリーム戦のメンバー全員が準優までに姿を消す結果となった。 12R 準優勝戦 結果 1着 3 倉谷和信 1コース .09 2着 4 松井 繁 6コース .11 3着 2 林  貢 3コース .12 4着 1 服部幸男 2コース .10 5着 5 烏野賢太 4コース .08 6着 6 大嶋一也 5コース .10 連単 3-4 4580円  21番人気 決まり手 逃げ 「いやぁ、倉谷は大したもんだ。SGでも構わず前ヅケに出てきやがった。こりゃ倉谷の初優勝の目もあるかも知れないぞ?」  節間ずっと倉谷を追いかけていた自分は、ここで倉谷のSG初優勝を確信していたのだが……。
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優勝戦での恵まれ。大阪両者の明と暗
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シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中

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