更新日:2023年05月24日 14:58
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世界の真ん中で「セーラームーン」を絶叫した男、都会の怖さを知る

セーラームーン、いっぱい居ますよ

   皆の視線が一斉にマッちゃんに集まる。いつもは深い時間にならないと積極的に下ネタを語ろうとしない彼が、わたしがチンコとか言うと「まだ二十一時半やで!?」と突っ込む彼が、まだ二十二時前だというのに珍しく自分から話し始めたので、心地の良い声に皆で耳を傾けた。  今から二十年くらい前、京都から東京へ来たマッちゃんは浮足立っていた。大阪にも住んでいたから都会は見慣れているけど、やっぱり色んなものが珍しくて渋谷や銀座、新宿など繁華街を歩き回った。一番興味があったのはなんといってもイメクラだった。当時、関西ではそこまで多くなかったイメクラが東京にはたくさんあると聞いていて、別段アニメやコスプレに執着があるわけではなかったが、一度は試してみたいと思っていた。  どっかいい感じのとこはないか、考えながら新宿を歩いていると、怪しい風体の男性から声を掛けられた。 「お兄さん、セーラームーンどうですか?」 「はい?」 「可愛いセーラームーンいっぱい居ますよ」  まさに待ち望んだイメクラのキャッチだった。 「はぁ~。セーラームーンかぁ~。東京はすごいなぁ~」  と言いつつもセーラームーンにあまり詳しくはない。どうするか悩んでいたが、「四十分六千円ですよ」という言葉に押されて、彼はついに地獄への扉を開けた。 「どの娘にしますか?」  店に入って見せられたパネルには、本当にセーラームーンがいっぱいいた。  セーラー愛華、セーラー美奈子、セーラー紗花etc。金髪茶髪はまちまちだけど、どれもみんなツインテールで紺のセーラー服を着ている。やっつけ感と雑さに溢れていた。  (マジでセーラームーンしかいないやんけ。マーズとかヴィーナスとかおらんねんな)  心の中でそう突っ込めるぐらいの知識はあった。適当に目についた娘を指さすと、やたらとだだっ広い部屋に通された。今思えばSMのプレイルーム的な感じであると彼は言う。  所在なく部屋で佇んでいると、突然扉が開き、全身タイツに覆面を被った二人組が入ってきて叫んだ。 「我々は妖魔だ! お前を人質にする!」  たどたどしい演技だった。体格で男性と女性だとわかるが、二人とも結構歳のいった声だ。 「えっ? えっ?」  動揺していると、あれよあれよという間に服を剥ぎ取られ、パンツ一丁にされて壁の手錠に括りつけられた。そこで初めて、SM系の店なのではという疑惑が持ち上がる。受付では何の説明も受けていない。 「あの~ここって…」 「黙れ!お前の質問は受け付けない!」  訊ねようとすると遮られ、細くて薄っぺらい鞭で叩かれた。あんまり痛くはない。仕方がないので黙ってじっとしていると、妖魔のオジちゃんとオバちゃんは、マッちゃんの身体を弄り始めた。乳首を抓ったり、筆みたいなもので股間をサワサワされた。そうこうされているうちに、嫌でも下半身がむくむくと膨れ上がってくる。こんなので反応してしまうのが悔しかった。 「気持ち良いのか?」  妖魔のオバちゃんが芝居がかった声で訊いた。 「……はい」 「セーラームーンに助けてほしいか?」 「……はい」 「ならばセーラームーンに助けを呼べ!」  妖魔のオバちゃんは下半身を弄る手を止めることなく言った。マッちゃんはもう恥ずかしさと混乱でわけがわからなくなっていたが、恥じらいを捨てて叫んだ。
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セーラームーンは来ないっっっ
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(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani

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