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20世紀最後のボートレースダービーで勝負をかけた川崎智幸の壮絶な決着

腕vs経験、20世紀最後のダービー王をめぐる死闘

 満員のスタンドの歓声を受けながらピットを離れる6艇。前ヅケ指向の高い高山も安岐もインコースを取りにいかず枠番主張の構えを見せ折り合う中、服部だけがコース狙いのピット離れを見せ、5号艇高山を抑えて川崎の4コースを狙うが、川崎は譲らず4コースでもスローを選択し服部は5コースから引っ張る1234/65で整う。  スリットは4号艇川崎を筆頭に外3艇がゼロ台スタート、全速でスリットを抜け内側3艇に襲いかかる。  1Mの初動、起こしをしくじりながらもまくり差しに出ようとした安岐を植木がブロック、その隙間を突いて川崎が前年の山室展弘のまくり差しを彷彿させる全速でまくり差しで池上を捉えてバックで先行。  しかし、出足に勝る池上が追いつき、1周2Mで追走する服部をツケマイで潰しつつターンマークを外した川崎の内側を差し込み並びかける。そこからは内側に池上、外を川崎が回る、予想屋の言葉を使えば「2人の世界」だ。  直線ではお互いに接触も辞さないサイドバイサイドの展開と、ターンマークでは全速旋回の競演が声援と悲鳴に包まれながら繰り広げられ、決着がついたのは3周1M、それも思いもよらぬ形での決着となった。  全速でターンマークを先マイしようとする池上の外を3度目の強ツケマイで抑え込もうとする川崎だったが、艇が必要以上に傾いた旋回となり、水面の上を大きくかき回したプロペラがキャビテーションを起こし、その場でスピンしてしまい沈没するように転覆。  実況を担当していた北嶋興アナウンサーの名セリフ「20世紀最後のダービー王を決めるレースはあまりにも壮絶」の言葉通り、決着も壮絶な幕切れとなった。  川崎が脱落し、完全に独走状態となった池上は危なげなく3周2Mの旋回を終わらせてゴール。繰り上がりで2着になった植木にも2秒の大差をつけてのSG優勝のゴールであった。 <優勝戦結果> 1着 1 池上裕次① .12 2着 2 植木通彦② .13 3着 6 服部幸男⑤ .09 4着 5 高山秀則⑥ .09 5着 3 安岐真人③ .15 転覆 4 川崎智幸④ .08 連単 1-2 730円 2番人気 決まり手 抜き  池上をツケマイで潰せるチャンスのあった最後の3周1Mでの振り込みと転覆。あと1回ターンマークを回ればおそらく2着以上の賞金とその後いくつかのSG優先出走条件を得られたはずだったがそれらをすべてフイにし、選手責任失格だったため事故点をつけて川崎の戸田SGは終わった。  この日、このレースに限って言えば、モーターもスタートもおそらくは腕も川崎が勝っていただろう。そして川崎と競っていた池上も1コースを確保していたとはいえ決して楽なレース展開ではなかったのは間違いない。  地元の利を活かしたレースコース取りと、1周2Mでの地元選手しか知らないであろう流れる先行艇を追いつめ突き放せる可能性が高い差し筋、それらをすべて活用してなお川崎は突き放されることなく追撃をし、そして抜き去ろうとしていたのだから。  その証拠に3周1Mで川崎が転覆する音が聞こえたのか、バックストレッチで何度も振り返って4号艇の追走がなくなったのを確認していたし、また聞きなのだがゴール後舟を降りてヘルメットを脱いだときの池上の顔は、まるで敗者のように真っ青だったという。  レース後のインタビューで川崎は自身の転覆に関して「自分の中では賞金とかじゃなかった。優勝しか考えられなかった」という旨を述べていた。  あのレース展開ならピンロク勝負もやむなし、このインタビューを聞かずとも川崎の転覆に文句を言う客は少なくとも自分を含めてまわりにはいなかった。そのまま決まっていれば4-1なら30倍弱、裏の1-4でも20倍弱だった4=1の舟券を持っていたとしても……。  3周1Mまでどっちが勝ってもおかしくない激戦、相手が転覆し事故レースとなってしまったせいであまり評価をされていないが、勝った池上、負けた川崎、どちらの視点から見ても名勝負だと思えるレースだと自分は思っている。  この先、自分が自分でいられるあいだ、このレースのような取っても外しても納得ができるレースがどれだけ見られるのだろうか? ※平成22(’10)年度以前の話題につき当時の名称にて表記しております ※本文中敬称略
シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中
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