関東連合元リーダー・石元太一が獄中から出版。「塀の中」の実態とは?
2010年代の序盤、半グレの代名詞的存在だった関東連合の悪名は全国に轟いていた。その中心的な1人として挙げられるのが、石元太一氏。関東連合・千歳台ブラックエンペラーの16代総長であり、フラワー事件に連座して現在、服役中の身である。
そんな石元氏は、獄中から「特別少年院物語」(大洋図書)を上梓した。少年院の実態や過去に起こした殺人事件について振り返るなど、自身の経験を内省的な筆致で振り返っている。そんな石元氏の著作からは、何が読み解けるのだろうか。気鋭の社会学者・開沼博氏が寄稿した。
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前頭部左側頭部打撲、左上顎骨粉砕陥没骨折、三叉神経の知覚障害、上顎洞血腫、左眼球打撲による結膜下出血、前歯の骨折、内臓打撲による血尿――。
歌舞伎俳優・市川海老蔵が西麻布のバーで暴行を受けて重傷を負い、連日のようにワイドショーがその背景や捜査の推移を報じた事件が起きたのは2010年のこと。あれから10年の月日がたとうとしている。
いまの海老蔵は、あの時の海老蔵が知る由もないような経験をして、大きく変化を遂げている。多くの観衆は一昔前のあの事件のことを忘れてもいるだろう。他方で事件のもう一方の当事者=暴行をした側の人々が属しているとされる集団もまたこの10年で大きく変化した。
彼らが属する集団は「半グレ」と呼ばれ、その得体のしれなさに世間が向ける好奇の目を背景に、テレビや雑誌がセンセーショナルにその内情を報じてきた。一方、2013年以降は警察当局が各集団を「準暴力団」に指定するところとなり、厳しい摘発が進んでいった。その結果、かつて隆盛を誇った集団の多くがいまや壊滅状態にあるとも言われる。しかしながら、2019年にお笑い芸人の雨上がり決死隊・宮迫博之が反社会的勢力の忘年会に出席していた“闇営業問題”が報じられた際には、そこに「半グレのリーダー」がいたとも報じられた通り、闇社会に一定の居場所を置いているらしいことは確かだ。
警察は半グレ≒準暴力団を「暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、これに属する者が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行っている、暴力団に準ずる集団」と定義する。振り込め詐欺やヤミ金融などを資金源とするだけではなく、その掴みどころのない組織構造も含めて、彼らは現代社会に適応し変化し続ける現代裏社会を語る上では欠かせない存在であり続けていると言えるだろう。
前置きが長くなった。
その半グレ集団の象徴的存在とも言える関東連合。1980年代の暴走族にその源流があると言われるその集団の、さらに象徴的存在が、本書の著者・石元太一だ。
半グレについてはNHKが特集を組むほどに、外部からその内実が深く描かれてきたことはあるが、その内部から、実際に在籍し、人間関係を把握し、シノギや事件に関わってきた上で声を発する者の数は多くない。
これまで書籍や雑誌インタビューなどのなかでその内情を明かしてきたのは、著者と他の何人かのインサイダーに限られる。その内部から見える世界は彼らの声に頼って見渡すしかないのが現状だ。
本書はそんな関東連合の関連本の中では異色のテーマを扱っており、「外伝」といってもよいものだ。
それは、裏社会での活動そのものではなく、一冊を通して、関東連合に所属する著者が未成年の時間を過ごした特別少年院という独特の世界について書かれている故だ。
本書を通じて伝わってくるのは「更生の現場」のリアリティだ。本書を読みながら花輪和一『刑務所の中』を思い出した。刑務所もののドラマにあるような非日常性の強調、重々しく脚色された登場人物たちの来し方行く末の描写はそこにはない。どこにでもある日常はどこにでもあり、当然特別少年院物語の中にもある。全ての素性を知るわけもない人間同士が一箇所で共同生活を送る。なにかのきっかけで集い、ただ日常を積み上げていくだけだ。
どんな人間が「入院」し、どんな作業をしているのか。職員はどんなスタンスで少年たちに接し、退院までにどんなプロセスを経るのか。そんな風景が青春コメディを見せるように軽やかに描かれつつ、更生とは何か、大多数の人は直接触れることのない世界に触れることができる。少年たちと少年院の職員との間の関係性には温かい肝になるものもある。「入院」すると、少年院の外のことを「社会」と呼ぶという。少年院の内部と社会との関係、社会に戻るまでの限られた時間での更生に必要なことの単純ならざるあり様には気付かされることも多い。
例えば恋人との面会等を抑制しようとする場面で著者はこう主張する。
<少年院のなかで更生のきっかけを生む多くは、ホントの出会いの他、職員や外部から来る講師の人の話、そして手紙や面会を通じてだったりする。手紙に書かれていた何気ない一言で更生を決意したという院生も実際にいた。>
こういう感覚は、言われればわかる気がするが、しかし外から見ているとなかなかイメージがつくものでもない。
一方、物語に没頭した後、ふとこの本がフィクションではないことに気づき直すたびに愕然とする。
■特別少年院という独特の世界
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『特別少年院物語 (日本語)』 「まともに学校に通わなかった俺にとって、少年院はすべてを教えてくれた場所だった」 |
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