更新日:2020年06月27日 15:20
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コロナ感染者が出たタワマン、住民の間で何が起きたのか?

 新型コロナウイルスの発生源を巡る米中対立や、さらに国内を見渡せば自粛警察や県外者狩りなど、パンデミックは社会にさまざまな分断をもたらした。それはまた“天上世界”でも例外ではない。
タワマン

写真はイメージです。本文と関係ありません

低層階住人は階段利用を強いられ、マスク非着用はネットで晒される

 ステイホームの呼びかけによって、巣ごもりの拠点となった超高層タワーマンションの住民たちの間にも大きな軋轢が生じていた。  特に3密になりやすいエレベーターは、摩擦の温床であるという。江東区・東雲のタワマンで子育て中の40代男性は明かす。 「緊急事態宣言以降、ウチのマンションの管理組合は、3密防止のために『エレベーターの相乗りは原則5人まで』という努力目標を出した。しかし、ただでさえステイホームでマンション内の人口が増えているときに、みんな小分けになって乗るからエレベーターが全然来ない。急いでいるときに、すでに5人乗っているエレベーターに押し入ったら、小池百合子みたいなおばさんに『密です!』と叱責されたこともある。ネット上のマンションごとの住民専用掲示板で、『〇階に住んでる会社員風の男はエレベーターでマスクしていなかった』などと晒されたりするので、本当に怖いです」  タワマン・コミュニティでは、居住する階数によって地位が決まる「階数ヒエラルキー」が存在するといわれている。しかし、コロナ禍のタワマンでのエレベーター利用を巡っては、そうした格差がより鮮明になったようだ。品川区内のタワーマンションに住む30代の主婦の話。 「ウチのマンションは18階までしか行かない低層階用エレベーターと、それ以上にしか行かない高層階用エレベーターの2台に分かれている。ウチは4階なので、低層階用エレベーターです。以前は、高層階住人から見下される立場として、低層階住民にはちょっとした連帯感があったんです。しかし、3密が嫌われる現在は、低層階用エレベーターの利用者の間で『5階くらいまでの人は階段を使え』という雰囲気が漂っている。上階から来たエレベーターに4階から乗り込むと、舌打ちをされたこともあります」  現在は、なるべく階段を使っているという彼女だが、そこでもこんな問題が……。 「緊急事態宣言以降、共用施設のジムが閉鎖になっているので、トレーニング代わりに階段を上り下りしているおじさんたちが結構いるんです。階段は換気も悪いし、正直迷惑です。ちなみにウチの真上の階にいる子なし夫婦も昼間から部屋でエクササイズしているみたいで、ドスンドスンとうるさくて仕方ないですよ」  緊急事態宣言以降、首都圏の多くのタワマンではジム以外にも温浴施設、ラウンジなどといった共用施設を閉鎖してきた。  これについて、「共用施設が使えなければ、タワマンなんて刑務所や病棟と変わらない」と話すのは、江東区・有明のタワマンの賃貸物件に住む30代の男性会社員だ。 「ウチの会社では4月から2か月間リモートワークだったのですが、緊急事態宣言が発令されてからは、リモートワーカーが増えたせいでネット回線が混雑して繫がりにくくなり、仕事になりませんでした。徒歩圏で食材の調達ができるのは、マンション1階にあるスーパーが唯一の場所だったのですが、肉や冷凍食品はずっと品薄状態。トイレットペーパーの争奪戦も起きていました。  共用施設がすべて閉鎖されているので、気晴らしといえばマンション敷地内の遊歩道を歩くくらい。しかしそこも、休校になったガキどもがあふれていた。何人か叱り飛ばしてやりましたけどね。そもそもタワマンは昼間に全住民が在宅することを想定して造られていないので、あらゆる場所がキャパオーバー。共用施設の再開も未定だし、私は夏にも今の部屋を退去する予定です」  この男性のように、コロナ禍をきっかけに住んでいたタワマンを離れる者は少なくないようだ。都内のある不動産仲介業者は言う。 「タワマンの売りであるラウンジやジムなどの共用施設が閉鎖されたことは、流動的な賃貸市場においては負の影響になっています。すでに入居している貸借人の間では、共用施設を使えないのに今までと同じだけ共益費を徴収されることに対する不満もあります」  タワマンで賃貸離れが起きれば、所有する大家たちも手放さざるをえなくなるだろう。不動産市場への影響も小さくない。
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感染者が出たタワワンで起きた住人同士の軋轢
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1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~

詐欺師や反社、悪事に手を染めた一般人まで群がっていた

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