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スナックで“自分探し”を始めた中年男。アイデンティティは崩壊寸前?

KYのレッテルを貼られることも

 オヤカタが毎週顔を出すようになって、彼の妙なキャラクターもすっかり定着し、そしてそれはどんどんエスカレートしていった。  田中の顔を見れば「田中っち~! すき~!」。イズさんの顔を見れば「イズっち~! すき~!」。隣のゴミちゃんには「わたしたちもうおしまいね!」。そして女子を見ても、「●●ちゃん! すき~!」。誰でもいいんでしょと言うと「なぁ~んで知ってんのよ~ぅ」。そして唐突に始まる「なぁ~に~ぃ!? やっちまったなぁ~~!!」  あまりにいろんな設定を同時進行で出し過ぎるあまり、もはやゲイキャラどころかブレブレの迷走状態に陥っているが、本人は非常に楽しそうで、そして翌日に記憶はほとんどない。  その様子もまぁ面白いからたいていの場合は良いんだけども、わたしたちは忘れていた。  オヤカタが、そもそものスナックでの遊び方、つまりスナックでの普通の飲み方をあんまり知らないこと。そして通常状態の彼は極めて真面目で、あんまり会話のキャッチボールをしないこと。ところ構わず、人を選ばず全開でふるまわれるその突飛なキャラクターは、時に彼を「空気の読めないヘンな人」に変えてしまう恐れがある。

愉快に飲めればそれでいいのだ

 まだ酔いが足りていない状態の田中が他の常連との会話を楽しんでいる間に、オヤカタの「田中っち~!」という甲高い声がぶっ込まれた瞬間、そして田中が「今そういうのはいいから」と言った瞬間、その危うさに気付かされてしまった。  最近では、他店のオーナーや店長が仕事モードの抜けきらぬ顔で話し込んでいるボックス席にグラスを持ってゲイキャラモードで飛び込んでいき、しまいには年配者であることをふりかざして説教などもし始めてしまう有様で、キャラクターの迷走度と共に危険度も上昇中だ。  こんなことを言っても仕方ないのだけども、もしオヤカタがもっと若いうちにスナック遊びの経験を積んでいて、他人が冗談交じりに言ったキャラクターをそのまま受け入れないアイデンティティというか「酒場での自分」を確立していれば、こうはならなかったのかもしれないなぁとか思ったりするのである。  それでも、現在のオヤカタは半分、わたしたちみんなでけしかけた結果のキャラクターでもあるし、何より本人が活き活きとして楽しそうな顔をしているだけに、みんなで見守って、危ういときは少しずつ教えていくしかないのだ。彼が、いつでも酒場で歓迎される、愉快な酔っ払いでいられるように。<イラスト/粒アンコ>(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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