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スナックで“自分探し”を始めた中年男。アイデンティティは崩壊寸前?

粒アンコ

第三十三夜 野暮は揉まれて粋となる

 午前三時半。 「いやいや!俺ら、伊達に飲み歩いてるわけじゃないんで!」 「お父さん、あんまり新宿知らないんすね!」  おっさんのイキりというにはまだ若く、かといって「若さゆえ」ですべて片付けるには遅すぎたような、微妙な年齢層の男たちの口から次々と吐き出されるこっぱずかしい台詞に、つい蔑みの眼差しを向けてしまうのを隠すように麦焼酎を飲みながら、わたしはぼんやりと(なんかダサい奴が増えたな~)とか思っていた。  いや、確実に増えている。  飲み屋で空気を判断する前から騒ぐ、無駄にイキる、しつこく詳細に値段を聞く。  どれも始めのうちはやっても当然のことなのかもしれないが、三十をとうに超えた人間がやっているのを見ると、(いや、そういうのは大学生までに済ませておけよ……)と思ってしまう。遊びの経験値が低いのだ。

夜遊びは若いうちに

 それは単純に時代のせいかもしれなくて、時間もお金もゆとりがあって、今よりも情報も少ないがゆえにパワハラセクハラなんでもござれの上司のもとに前倣えして、それでも年々給料が増える希望に満ちていたバブル世代と比較するのは酷なハナシなのかもしれない。  大学時代は遊ぶ暇なくバイト三昧の学生は増えたし、懐が安定してくる年齢も遅くなったし、無理やり二次会でスナックへ連れまわすような上司も減った。だけど情報だけはスマホひとつで簡単に得ることが出来るから、遊びの経験値ゼロ、飲み屋の暗黙の了解もどこ吹く風で飛び込んでくる。高校デビューでも大学デビューでもなく、社会人デビューとも言い切れず、中年未満デビューである。  時代のせいかもしれないけれど、差別的だと言われるかもしれないけれど、彼らを見ていると思ってしまうのである。金がなくても時間がなくても隙あらば若いうちに、「若さゆえ」で済まされるうちに遊んでおいたほうが良い。そして恥ずかしい思いをしておいたほうが良い。下手に歳を重ねてから急にハシャギ出すと、どうしてもハシャギ方に押しつけがましさみたいな歪みが生じるし、場合によっては謎の薄気味悪ささえも生じてくるからだ。  上記とは少し違って憎めないパターンなのだが、還暦を間近にして夜遊びを覚えて、変な方向に取っ散らかってしまったオヤカタという人がいる。スナック遊びの達人ゴミちゃん(第二十五夜参照)の先輩だ。それまでの彼は、職場と自宅の往復、たまの職場の飲み会と休日昼間のバーミヤンでビールを楽しむ程度の健全すぎる生活をおくっていたのだが、ゴミちゃんの影響によってここ一、二年で飲み屋遊びにどっぷり浸かってしまったある意味愉快で、ある意味残念な人だ。
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還暦前に狂い咲いた男
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