自転車で旅するUberEats配達員。「旅を終えた後」はどうする?
僕は普段、日雇い派遣などの仕事で稼ぎつつ、時間を見つけてはタイなどの東南アジアを中心に旅してきた。この状況では海外旅行には行けそうにないが、日本国内ならば比較的自由に動けるようになってきている。旅がしたい。でも、社会の底辺で生きる僕にはお金がない。そこで「Uber Eats」の配達で稼ぎながら国内を自転車で旅するという方法をとることにしたのである。
旅に出て69日目、僕は岡山にいた。ここではウーバーの配達でかなり順調に稼げる日々が続いていた。これといって大きなトラブルもなかった。少し面白かったのは営業開始前のホストクラブに配達をしたこと。もしウーバーの配達をやっていなかったら僕がホストクラブの店内に足を踏み入れることなんて絶対になかっただろう。
70日目は午前中に電話取材を受けた。あるメディアで僕のことを取り上げたいというのである。僕はYouTubeへの動画投稿もしているのだが、その宣伝ができるかもしれないという下心もあり、その取材依頼を承諾していた。
僕しかいないゲストハウスのドミトリールームでスマホをスピーカーモードにして相手の質問に答えていく。これまでの経歴、この旅のこと、ウーバーの仕事の魅力……などについて訊かれた。
取材は和やかな雰囲気で進んでいった。が、僕が何気なくこう言ったときだった。
「でも、この旅が終わったら、ウーバーの配達員は辞めるつもりです」
「え、そうなんですか……」
その一言で相手の口調は急に重くなる。そして最終的に今回の件は一旦見送りということになってしまった。
先方が興味を持っていたのはウーバーの配達員をしている僕であり、それを辞めてしまう僕には興味がないということなのだろう。
そういうことなら僕も素直に引くことにした。たとえお金のためにどんな仕事をしようとも、僕の本質はあくまでも物書きなのだ。物書き、もしくはYouTuberとして取り上げられるのは歓迎だが、それ以外の形で取り上げられるのは僕としても本意ではなかった。くだらないプライドなのかもしれないが……。
そんなことがあったので、この日の配達のスタートはいつもより少し遅い昼頃からになってしまった。それでもこの日はいちばんの稼ぎどきの日曜日だったので、前日よりも多い収入を得ることができた。
電話取材を受ける
物書きとしてのプライド
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バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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