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「僕はいつまでも地べたの側の人間です」山本周五郎賞作家・早見和真の素顔

早見和真

絵本「かなしきデブ猫ちゃん」の原作も手がけた早見氏。その主人公のまるの着ぐるみと共に、道後温泉前で撮影

いつまでも自分は“地べたの側”にいる

──山本周五郎賞を受賞したことで、ご自身のなかで作家としてなにか変わったことはありますか。 「おそらく、作家としての僕自身はなにも変わっていないと思います。僕、『この作家がいまサムいと思われてる』とか『この作家が10年後天下をとってるな』とかいうことを当てるのがむちゃくちゃ得意なんですけど、自分のことだけは本当に、どこに向かうかまったくわからない。謙虚であろうとしているとかではなくて、デビュー1、2年目の人にも平気でコンプレックスを抱いて本気で嫉妬しますし。  そういった意味ではデビュー前となんら変わりないし、いつまでも“地べた側の人間”だと思ってます。自分の評価と、周りからいただく評価やオファーとは乖離してますね」 ──早見さんは、愛媛でラジオ番組のパーソナリティを務めていたり、競馬番組に出演されたりと、よくメディアに出られている印象があります。 「出るものによってはただ消費されるだけだし、『小説家たる者メディアに出るべきじゃない』っていう気持ちはもちろんあるんですよ。だけど、みんながそんなふうに小説家ぶってきたから本がこれだけ売れなくなっちゃったんじゃないの?って気持ちもあるんですよね。だったら、自分が求められるのならば、めちゃめちゃ吟味して、積極的に選び取って、テレビに限らず出張るのは開き直ってやろうと思ってます」 ――NHKの年末の競馬番組のナビゲーターもされていましたね。 「2020年はあまりに競馬の仕事をしすぎて有馬記念の仕事は全部断ったんですけど、そんななかでNHKのVIP仕事だけ受けてる自分がほんと嫌いで(笑)。でも、ああいう形で2020年を締めくくるのもいいかなって」

競馬の完成形を見た2020年ジャパンカップ

――(笑) では、2020年で印象に残っているレースはありますか。 「11月のジャパンカップは、久々に一般の人にまでニュースとして派生するようなレースだったと思います。ウェイトゥパリスという外国馬が枠入りをしくじって何分も待たされてっていうところから始まり、キセキが大逃げしてペースを作り、それでまたアーモンドアイ、コントレイル、デアリングタクトの三強が叩き合いとまではいかなかったけれども、1着2着3着で決まるなんて。  あの三連単1点で買った人はきっと山ほどいるだろうけど、それはもう、会心の馬券だったろうし。あのレースって、競馬の完成形の1つを見ちゃったなという感じはありますね」 ――小説に書けそうなほど熱かったですか。 「種牡馬対決という見方をしてもおもしろかった。ロードカナロア、エピファネイア、ディープインパクトというこの国を代表する種牡馬たちの、それぞれの代表作が集まったんですから。それに、牧場対決という面では、ノーザンファームが2019年まで一強だった中で、2020年は、それこそクラシックはデアリングタクトとコントレイルに獲られて、クラシックは一個も獲れてなかったわけで、そのノーザンファームが返り討ったという見方もできる。  コントレイルもデアリングタクトも無敗の三冠馬としてジャパンカップに参戦して、それを倒したアーモンドアイが史上初の九冠馬に輝くんですから、あんなできすぎた筋書きを僕が小説で書いたら、もうみんながシラけちゃいますよ(笑)」 ――年が明けて2021年になると、競馬ではすぐに金杯があります。予想を伺ってもいいですか? 「2020年は競馬にまみれた1年でした。『これでもう競馬やめる!』って娘に言ったら『それ、毎年年末に言ってるよね』って……。なのでもう、競馬(金杯)の予想はしません!(笑)」 構成/松嶋千春(清談社) 撮影/吉原章典
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