「16年ぶりに筆を執った」現役女医の作品が、満場一致で新人文学賞受賞。どんな人物か、本人を直撃
東京創元社が主催する鮎川哲也賞は、毎年多くの応募作品が集まる新人文学賞だ。第34回にあたる今年、審査員が満場一致で選出した『禁忌の子』は、医療をテーマにした本格ミステリー作品。
何と言っても冒頭から引き込まれる。救急医・武田の元に搬送されてきた身元不明の溺死体「キュウキュウ十二」の顔は、周囲の誰もが息を飲むほど、武田と瓜二つであった。物言わぬ亡骸は、誰なのか、なぜ死んでしまったのか、武田との関係性は――何も答えてはくれない。旧友で同僚医師の城崎とともに調査に乗り出した武田は、この事件の背景に巨大な何かがあることを知っていく。
著者であり現役の医師である山口未桜さんに取材を行い、本作が完成するまでの道程、作品に込めた思いを聞いた。
――拝読して、現役の医師が医療をテーマに描くことの迫力、そして真実が解明されていくに従って高揚していくところに感銘を受けました。一方で、非常に流麗な文章にも驚かされました。
山口未桜(以下、山口):ありがとうございます。私は最終的に医学部へ進学しましたが、もともと小説が大好きで、作家になりたくて。友人に誘われたのをきっかけに、高校の3年間は文芸部に所属していたんです。誘った当時の部長に聞いてみたら、私がよく休み時間に読書をしているのをみて、勧誘することにしたそうです。書かせたら書ける人なんじゃないかと思った、と(笑)。高校時代はいろんなジャンルの小説を書きました。日常における推理ものやホラーなんかにも挑戦しましたね。今回、コロナ禍や出産・育児を経て、高校卒業以来、実に16年ぶりに筆を執ることになりました。こうして受賞できたことを嬉しく思います。
――山口さんは医師であると同時に、私生活ではお子さんを育てるお母さんです。そして、『禁忌の子』はまさに親と子の物語ですよね。そうした観点から、現実と作品がどうリンクするか教えてください。
山口:私は日々、一般消化器内科医として勤務しています。特に胆膵分野(肝臓、胆嚢、胆管、膵臓などの消化器系臓器)を専門としているため、緊急手術やがんの緩和ケアを行う場面も多々あります。そうしたなかで、ままならない出会いや別れを経験します。一種の無常観とでもいうような死生観が自然と形成されてきたと感じます。
一方で、出産・育児は私を母親にしてくれました。そのときに感じるのは、親から子どもへの愛情はもちろんですが、子どもから親に向かう愛情も確実にあるということです。そうしたものが、これまでの自分の未熟な部分をクリアにしてくれたという感覚もあります。ままならなさでいえば、育児のなかにもそれを感じることはありますが、それは喜びに繋がっている点が特徴的です。
本作は、一介の医師が突然巻き込まれていく、自分のルーツの話でもあります。そうした「ままならなさ」と抱えて誰もが生きているのではないかと私は思っています。
高校卒業以来、16年ぶりに筆を執った
現実と作品がリンクする点は?
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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