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<純烈物語>レッドブルを飲んで奮闘する里見黄門様に仰天した名古屋の夜<第89回>

「里見さんは『SLAM DUNK』の安西先生」のよう

 全23公演中(貸切含む)9ステージを終えたところで現場の感触を酒井に聞く。その第一声は「里見さんは、『SLAM DUNK』の安西(光義)先生みたい」だった。 「稽古の時から里見さんは『楽しくやってください』としか言わないんです。その言葉の意味って実は深いんだけど、すごく大人のチームだと思いましたよね。里見さんと時代劇を作ってきたベテランの仲間たちがいて、そういう皆さんが僕らの着物の着方とかいろんなおかしいところを見て「ごめんね、ひとこといい?」と丁寧に教えてくれて、大ベテランなのに礼儀もあるしで、本当にすごい人たちと仕事をしている状況にいます。  食事をご一緒させていただいた時に聞いたんですけど里見さん、まったく酒が飲めないんです。飲んじゃうと頭が痛くなって若い頃、一口で階段を転げ落ちちゃうぐらいに酔っぱらっちゃったんだって。それをメンバーが聞いて、リーダーと一緒だと。『酒井君もそうなんだ。じゃあ何を飲もうか?』となった時に、黄門様と助さんが『ジンジャーエール!』とハモりましたからね」  休演日を除いた15日のうち、一日2公演は8日分。いずれも第一幕が80分の舞台で、第二幕は里見&純烈による歌謡ショーが75分。その間に30分の休憩時間がとられる。  2公演となると昼11時から夜の7時すぎにかけて公演がおこなわれる。リハーサルも含め一日10時間労働。それを御年84歳でこなす里見のバイタリティーに、酒井は唸らされた。 「その日の公演が終わると、お疲れビールみたいなものを飲んで自分へのご褒美にするじゃないですか。お酒が飲めない里見さんは何を飲んでいると思います? これがレッドブルなんですよ。悪代官をこらしめて見事な裁きで村の問題を解決したあとに、黄門様がレッドブルを飲んでいるってすごくないですか!? それぐらい元気だし、気持ちも体も若いんです」

休憩の30分も演者は舞台裏で超忙しい

 観客にとってはロビーに出てグッズを物色したり、劇の感想で盛り上がったりする休憩時間の30分間も、演者は舞台裏で慌しい。第二幕の準備をするには、余裕を持てる尺ではない。  酒井は舞台袖からエレベーターに乗りつつ扮装を解き、かつら部屋ではかつらを、衣装部屋では2人がかりで衣装を脱がせてもらうとバスタオルとバスローブを抱え4人ほどが一度に入れる広さの湯船へ。  そして頭を洗い、メイクも落としたらすぐに出て体を拭き、楽屋へ戻って髪を乾かし着替える。それぐらいの速さでやらなければ、30分以内に間に合わない。  言うまでもなく里見も同じことをやり、そういった慌しさを微塵も見せることなく歌謡ショーのステージに光圀公ではないもう一つの顔を輝かせ、降臨する。なぜそれができるのか。 「もうちょっと若い頃は、お芝居のあと歌謡ショーのところに舞踊を入れていたらしいんです。途中で里見さんが、梅沢冨美男さんみたいになっちゃうわけ。ステージの真ん中が下(奈落)に消えていきますよね。消えた瞬間から衣装を脱いで、顔を真っ白に塗ってまた別の部分からせり上がってくる。7分ぐらいバンド演奏とかでつないでもらう間に、それをやって……というステージをずっとやっていた。  僕らはムード歌謡グループでありながら出させていただいているわけですけど、舞台で生きてきた方々って、とんでもない。それを現場で経験できているのは、ありがたいことです」  そんな酒井だから「里見さんに喜んでいただけることを何かできないか」と考え、ツイッターで純子と烈男の皆さんに「酒井は紫、白川は赤、小田井は青、後上は緑、里見さんは白」と業務命令を出した。会場で振るペンライトのことだ。  第二幕の客席に、普段の純烈ライブではお目にかかれぬ光の色が加わった。気をよくした里見は、ステージ上で「今度(純烈が)ムード歌謡をやる時は、皆さんに加えてもらおうかな」と茶目っ気を出す。次の瞬間、恐れ多いとばかりに4人が「御老公様!」とひれ伏し、酒井が言った。 「新メンバー・里見浩太朗! これはもう、リードボーカル全部お渡しします。一緒に歌うって、楽しいですね」
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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