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『シン・エヴァ』と『ハッピー・マニア』とダブルアンノの25年

テレビシリーズが放送開始した’95年から25年の時を経てエヴァンゲリオンシリーズが完結。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が3月8日に公開された。公開に合わせて放送された庵野秀明監督の密着ドキュメンタリーも話題を呼んだ。

恨めしいなんて流行遅れ

 四半世紀の間多くの人にとって現在進行形であり続けたアニメシリーズが完結するというふれ込みは、新型コロナの影響による公開延期さえも、深みやハクを後押ししたような形で大変な話題を呼んだ。  初日には1年近く連絡を取っていなかった昔のキャバ客から、「2年ぶりに映画館に行った」という内容のLINEが来たし、4日後に歌舞伎町の映画館で観終わったら、ひとつ前の列に座っていた小綺麗なおじさん2人が、部活の試合終了後のようにハグして、「ほんとに終わった」「ちゃんと終わった」と言いながらお互いの背中をポンポンし出したし、多くのファンが、ひとまず青春に決着がついたという気分で何かしら語り合っている。  ついでにNHKでは制作現場を4年にわたって取材したドキュメンタリーが放送され、ジブリの名プロデューサー・鈴木敏夫をして「もう60歳になろうっていうのに大人にならない」と言わせる伝説的監督の仕事中の姿が映し出された。番組では、今作のキャラクターデザインにも名を連ねる妻の安野モヨコにもインタビューをしており、彼女によるサポートに多くのアニメファンが感謝のコメントをしているのが印象的だった。  確かに自分の命より作品を優先してしまう上に、肉も魚も食べないアニメ監督の命と生活を守り、「みんながいなくなっても私はいなくならない」と声をかけるその存在なくして、作品が作られることはなかったのだろう。女性たちに叱咤激励され、守られながらでなければ主人公も安心して己の父殺しに出かけていられない。  さてしかしエヴァ現場ドキュメントでは最強のサポート役として映し出される彼女もまた最近、超人気作『ハッピー・マニア』の続編シリーズを連載中だ。自分勝手な恋物語によって離婚を切り出す夫を殴り倒す場面で幕を開ける作品には、自分は不倫しといて妻の不倫を責める男や、恋愛の悦に入ってストーカーまがいのつきまといをする男、妻が仕事で成功した後に不倫に走る男などなど、いい年して大人になり損ねた男たちが脇役として数多登場する。 『ハッピー・マニア』とテレビシリーズの『新世紀エヴァンゲリオン』は共に’95年スタートで、先に前者のヘビー読者であった私個人的にはむしろNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』こそ『ハッピー・マニア』のアザーサイドという感じがするのだけど、何世紀にもわたり父殺しに勤しんでいる男たちにとっては逆なのだろう。それはどっちでもよくて、どちらも主役にも脇役にもなっていることが重要に思う。夫を支えるゲゲゲの女房の時代にはそれは入れ替え可能ではなかった。  入れ替え可能ということは必ずしも公平だとか平等ということではない。「大人になんかならないよ」と歌ったオバQを地で行く男たちと、大人にならざるを得なかった女たちの間に不均衡があるのはそれはそうだろうし、だから「時代遅れ」なんて言葉をあまりに楽観的に使う報道番組のCMが一部女性の逆鱗に触れるような世の中ではある。  両者が共に息苦しくなったり時に壊れたりしながら、しかしそんな歪(いびつ)さの中で、人を芯から震わせるような傑作が双方から生み出される世界は、異常ではあっても最低ではない。健全でなくとも結構美しいと思う。 ※週刊SPA!3月30日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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