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猛毒ヒアリ、また東京にいた。60回刺された専門家に聞く“ヒアリとコロナ”

新型コロナウイルスとヒアリの類似点

――ヒアリは引っ越し上手で世界中に広がった、と。 村上:ヒアリはもともと、南米、アルゼンチン・ブラジル・ウルグアイの国境沿いに生息するアリです。1930〜1940年代にアメリカに渡って定着して爆発的に増加。そこから飛び火して、世界に拡散しました。ヒアリも新型コロナウイルスをはじめとする輸入感染症も、根本にあるのはグローバル経済化です。ヒアリが見つかった地点とコロナが増えている地点は重なりがあり、経済活動量と相関します。 ――中国でヒアリが増えているそうですが、やはり、旺盛な経済活動があるから? 村上:じつは中国は5ヶ年計画で駆除を進め、2010年に完全防除に成功し「ヒアリ根絶宣言」を出したんです(2010年オーストラリアダーウィンの学会で直接発表を聞きました)。でも、実態はそうではなかった。僕が2018年に広東省の広州市で現地踏査をしたとき、ありとあらゆるところにヒアリがいました。広州タワーの敷地内の芝生にマウンドのような巣をつくっていて、そのすぐそばで上半身裸のおじさんがひなたぼっこをしていたりするんです。 ――それは危ない。 村上:もちろん中国の研究者は一生懸命やっていて、国としても対策を打っているようですが、当時はとくに国全体の空気がバブル期の日本のようで。環境問題なんて二の次、経済イケイケドンドンといった雰囲気でした。ヒアリ被害もあるだろうけど、とりあえずみんな豊かになろうよ!みたいな空気で、駆除の難しさを感じました。 ――経済か? 健康か? どこかで聞いた話です。 村上:グローバルな経済活動を続けている以上、ウイルスやヒアリなどの外来生物は入ってくる。それは避けられないことで、必ず起こり続けます。だから、ちゃんとディフェンスを固めて防ぐことが重要なんです。ウイルスと違ってヒアリは目で見てわかりますし、その対策はウイルスよりは簡単なはずですから。

2017年のヒアリ騒動を忘れてしまった日本人

――どうすればいいですか? 村上:僕は福岡で、月一回のペースで港に入らせてもらってモニタリングを行っています。これができるだけで早期発見が可能になり、見つけてすぐに薬剤を散布すれば、そこで食い止めることができます。 大規模な貿易港では、限られた時間でも物流を止めるのは大変なのだとは思います。また、2017年にはある工場でヒアリが出たというニュースが出て、風評被害から貨物が止まって億単位の損害が出たという話もあり、難しい面もあるのでしょう。でも、研究者たちのモチベーションは高いので、港湾部に限定されているいまのうちから、研究者と現場がうまく協力体制をとれるといいですよね。
有明ふ頭

青海駅から見た有明ふ頭。ヒアリは国際貨物が到着する港・空港から入ってくることが多い

――水際での早期発見ですね。 村上:新型コロナウイルスと同じで、早期に水際で対応したほうが、結果としてコストは安くすみます。怖いのは平気になってしまうことです。2014年に起きた代々木公園周辺でのデング熱の感染を覚えている人も多いと思いますが、2017年にヒアリが来て大騒ぎになり、そしていま、新型コロナウイルスに翻弄されている。ジカ熱の問題も解決はしていませんし、日本国中がヒアリの恐怖に怯えた2017年から状況が改善しているわけではありませんから。 ――確かに、当時は大騒ぎでした。 村上:「ヒアリ=死」のように語られ、アリ全般が排除対象として見られるのではないかと不安になったほどです。しかし、いまはまったくといっていいほど、注意も関心もなくなりました。やはり「正しく恐れる」ことは大切です。 ――はい。
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コロナ対策に優れた国はヒアリ対策もうまい
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