更新日:2022年07月08日 17:24
恋愛・結婚

コンビニ店員が客と恋仲に。「ちゃんと責任取ってよね」と迫られて…

 夏は出会いの季節である。しかし、出会いのぶんだけ恋愛で痛い思いをすることも多い。僕も昔、夏に始まった恋でとてつもなく痛い思いをしたことがある。

夏の昼下がり、コンビニにやってきたY子

女性

写真はイメージです。以下同(Photo by photo AC)

 Y子と出会ったのは僕が昔、コンビニでバイトしていたときのことである。夏の昼下がりの暇な時間帯。店の外ではミンミンゼミがけたたましく鳴いていた。  僕がレジカウンターに立ってタバコの補充をしていると、Y子がふらりと店に入ってきた。そして携帯電話で誰かと話しながら店内をうろうろと歩く。やがてにレジカウンターの近くまで来て話しはじめた。 「だから、そんなこと言ったってしょうがないでしょ。もう泣かないでよ」  まるで小さな子供を諭すかのような話し方だった。 「うん、それじゃあね。頑張るんだよ」  しばらくしてY子はそう言って電話を切り、ふうッと大きくため息をついた。 「大変そうですね」  そのとき店内に他に客はおらず、暇だったこともあって、なんとなく彼女に話しかけてみた。 「そうなんですよ。本当に大変なんです」 「なんの電話だったんですか」 「私、家庭教師のバイトをしてるんですけど、その教え子の中学生の女の子と話してたんです。もうすぐ受験だから頑張らないといけないのに泣き言ばかり言って」 「へえ……」  彼女はその家庭教師のバイトでの苦労について淀みなく喋り続けた。僕はタバコの補充を続けながらその話に相槌を打つ。しばらくして業者がケースに何段重ねにもなった納品の商品を運んできたので、彼女はそこで話すのをやめた。 「仕事の邪魔したら悪いのでもう帰りますね」 「あ、ところで名前を訊いてもいいですか」 「Y子です」  それからY子は頻繁に店を訪れるようになり、気軽に言葉を交わすようになった。といっても、話すのはいつも彼女のほうばかりで、僕はそれにただうんうんと相槌を打つだけだったのだが。ともかく、そんな日々が半年ほど過ぎた頃のことだった。

Y子からの手紙

チョコ またいつものようにY子が店に来た。が、このときはいつもと様子が違い、少しもじもじとしていた。 「あ、あの……」 「ああ、いらっしゃいませ」 「これ」  彼女はカウンターの上にリボンの付いた小さな袋を置いた。 「これは?」 「食べてください」  それだけ言うと、彼女は足早に店を出ていった。  事務室でその袋を開けてみると、中に入っていたのはチョコでコーティングされたクッキーだった。この日はバレンタインデーだったのである。一個食べてみる。甘くて美味しい。彼女の手作りだろうか。手紙も添えられていた。 <いつも話し相手になってくれてありがとう。もしよければ味の感想を聞かせてください。Y子>  最後に彼女の携帯の番号も記されていた。僕は2個目のクッキーをボリボリと齧りながらその手紙をいつまでもじっと眺めた。  Y子に電話するべきかかなり迷ったのだが、翌日の朝方、思い切って電話してみた。 「ふぁい……、もしもし……」  彼女は寝起きの声で応じる。 「ごめんなさい。起こしちゃいました?」 「へ、誰?」 「小林です」 「え、小林さん! どうしたんですか?」  彼女は驚きの声をあげ、急にはっきりとした口調になる。 「クッキーありがとうございました。とても美味しかったです。ただそれを伝えたかっただけです」 「あ、あの、私……」 「はい?」 「私のこと迷惑じゃないですか?」 「いや、ぜんぜん迷惑なんかじゃないですよ」 「よかった。もし小林さんに迷惑だとか、うざいとか思われてたらどうしようって私、ずっと心配してて……」  受話器から彼女の啜り泣く声が聞こえた。なぜ急に泣き出したのか理解できず、かける言葉も見つからず、ただ黙って彼女の泣き声を聞いた。彼女が少し落ち着いてきたタイミングでこう切り出した。 「あの、もしよければ、今度食事でにも行きませんか」 「行きます!」  彼女は二つ返事で誘いを受けてくれた。
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「小林さんは私の元カレに似ている」
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バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。

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