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<純烈物語>最後の大江戸温泉ライブに来られなかった最前列のファンへ思いを届けて<第117回>

初の大江戸温泉ライブで10万円を散財

 その楽屋は、施設内にある御食事処「川長」の奥にある。個室の座敷があてがわれ、大江戸温泉物語グルメに舌鼓を打つのもメンバーの楽しみだった。  そこ以外にも出店はたくさんあり、メンバーそれぞれの慣れ親しんだ味を酒井が聞くと「川長さん出て左側にあるカツのお店のダブルカツ丼」(後上)「かけそばか、スンドゥブチゲ」(白川)「ざるそば」(小田井)と答える。そこから、初めて大江戸温泉ライブをやった時の秘話に入っていった。 「初めてライブをやった時は『お好きに召し上がってください』とおっしゃっていただいて(精算用の)カードキーを受け取ったんです。でもその時の金額がヤバすぎて、2回目以降は自粛して自分たちで払うように変わっちゃったんです」(後上) 「何を隠そう初めての大江戸温泉物語、私と友井(雄亮)さんがマッサージのオプションで頭皮スパだアカスリだとさんざんやっていただいて。みんなもマネジャーも食べた結果、お会計が10万円を超えました」(酒井)  大御所ならばともかく、その時点では1度目の紅白歌合戦出場も果たしていないグループがピラニアのごとく食いまくり、施設も使い放題(オマケにこの時の客席は微妙な入り)とあれば、普通なら「このグループは何なんだ!?」となる。酒井いわく、アミューズメントとしての大江戸温泉物語のクオリティーに、つい楽しくなってしまったらしい。スタッフの平澤誠さんが、笑いながら当時のことを話す。 「もう二度と来てほしくないという感はまったくなくて、逆に純烈はすごいなとみんなが口を揃えていましたね。最初に出逢った時から、この人たちと楽しく仕事がしていけるだろうという思いがありましたから」  2度目からは事務所が精算する形となったものの、メンバーの胃袋は大江戸温泉グルメを求めた。そして酒井や白川、スタッフに至るまで、普段はなかなか味わえないゆっくりと流れる時間を風呂の中で満喫できた。  日々追われる人間ほど、心に余裕を持てる時間は何ものにも代え難い。純烈にとってのそれが、ここにはあった。

選曲を間違えた音響スタッフをもイジる

 中盤にさしかかったところで、音響スタッフの木島英明が流す曲のオケを間違った。じっくりと聴かせる『僕に残された時間はどれぐらいあるだろう』のはずが、やたらノリのいい『星降る街角』のイントロが流れてきたものだから、待ってました!とばかりにメンバーがイジる。  歌い終えた酒井が「『どうして木島は間違っちゃうんだろう』をお聴きいただきました」と言えば、小田井も『木島君に残された時間はどれぐらいあるのだろう』と被せてくる。そこからMCのテーマは“長生き”へ。東京理科大のタグを持つ後上が、言葉の頭に「理論上は」をつけてくる。 「いちいち理論上、理論上っておまえはうるさいな!」(酒) 「物事はロジックありきじゃないですか!」(後) 「そこ(客席)、ロジックという言葉わからんで拍手しているな」(小) 「そんなもん、マジックぐらいしかわからへんやろ!」(酒) 「手品になっちゃうからね」(後) 「でも、(長生きするために)サプリメントとか売れるものなのかね」(白) 「サプリメント? おまえもかしこぶるな!」(酒)  この間、20秒ほど。よどみなく続く会話のグルーヴ感は、頭を空っぽにして浸かる湯船のような心地よさである。  140歳まで生きることを目標とし、家族全員を見送るという酒井はメンバーの葬儀を健康センターでやると宣言。これを本当に望んでいるのが小田井で「俺が死んだらそこのボイラーで焼いて、みんなには俺の体で沸いたお風呂に入って欲しいわ」と、ファンの前で早目の遺言を残した。  温泉やスーパー銭湯に思い入れを持つ者としての本望……大日本プロレスの“マッスルモンスター”関本大介が、若い頃に「ジャーマン・スープレックスでブリッジしたまま死にたい」と、技へのこだわりを語っていたのが思い起こされた。  最後であっても、いつも通りの純烈ライブ。『NEW(入浴)YORK』における後上のジャンプするステージアクションも今や定番となった。そしてラストのナンバーを残しずっと空いていた目の前の座席を、やはり酒井は拾った。
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最前列のド真ん中の空席に
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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