更新日:2022年01月03日 10:18
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「メリークリスマス」は魔法の言葉。生き恥を世界中に発信した僕にも優しい

おっさんは二度死ぬロゴ_確認用【おっさんは二度死ぬ 2nd season】

メリークリスマスは魔法の言葉

 本当に気持ち程度にオシャレなロッジ風の店内だった。その片隅で膝くらいの高さの小さなクリスマスツリーが居心地悪そうに瞬いていた。 「もう少々、お待ちくださいね」  少しだけオシャレな髪形をしたおっさん店主が鏡越しに満面の笑みを見せる。  12月に入り、一気に肌寒くなり澄んだ空気の感覚を思い出した。街はクリスマスに色濃く染まる。そんな季節の到来とともに僕は散髪ジャーニーになっていた。  僕くらいの年齢になると、まあ、完全無欠におっさんなのだけど、髪形にはこだわりがある。あまりおっさんぽい髪形にされたくないのだ。かといってあまり若い感じにもされたくない。そんな微妙で難しいお年頃なのだ。  おっさんぽくなくそれでいて若すぎない、そんな感じでこれまで無難に髪を切ってくれていた散髪屋が、ある時を境に明らかにおっさんぽい髪形に仕上げるようになったのだ。どんなオーダーをしようとも最終的におっさんに仕上がる。どうやらこの散髪屋において「こいつはおっさん」という判定を下されたようで、もう抗うことができなかった。この店はもうダメだ。そう見切りをつけて別の店を開拓することにし、散髪ジャーニーとなった。

常連と店主の会話

 ホームページで調べたところ、そこまで過度にオシャレでもなく、おっさん御用達しでもなさそうな、そんなちょうどいい具合の店が見つかった。すぐに予約し、伸びきった髪を携えて店に向かった。  予約時間に入店すると、先客がいるようでソファで待つように言われた。ソファに座り、本棚に置かれたマンガをチェックする。 『ろくでなしブルース』が置かれていた。完全に個人的な意見で何の根拠もないが、ろくでなしブルースが置かれている店は信頼できる。そこまで若者に媚びず、かといっておっさんにも傾いていない店にはろくでなしブルースが置かれている。これが男樹などのマンガになると大きくおっさんに傾くし、ワンピースだと若者に傾く。ちょうどいい塩梅、それがろくでなしブルースだ。この店は信頼できるかもしれない。にわかに期待が膨らんだ。  先客はこの近所に住む常連のようで、店主と親しく話していた。今度、また飲みに行きましょうや、みたいな会話をしていた。常連度がかなり高いようだ。  店内を流れる音楽がクリスマスソングに切り替わった。それを聞いて常連が何かを思い出したように話題を振った。 「最近さ、気づいたんだけどメリークリスマスって言葉、魔法の言葉だよね」 「どういうことですか?」  店主が首を傾げる。
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常連客の話す、クリスタル会事件とは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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