更新日:2022年01月03日 10:18
エンタメ

「メリークリスマス」は魔法の言葉。生き恥を世界中に発信した僕にも優しい

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常連客の話す、クリスタル会事件とは

「いやね、この間、山下っちと飲んでいるときに気が付いたんだけど、どんなひどいエピソードでも、クリスマスに起こった感じで話して、最後にメリークリスマス的なセリフで締めるといい感じになるのよ」 「いい感じになる?」  店主はさらに首を捻った。 「例えばさ、ほら、このあいだの事件あったじゃん、クリスタル会事件」 「ああー、あれですね」  クリスタル会という会が何を示すのか分からないけど、話の流れから、店主と常連客とその他の友人が属する飲み会サークルみたいな感じだった。その飲み会において、とても運がいいことに隣の女性グループと意気投合して仲良くなり、一緒に盛り上がることになったようなのだ。

しかし、そんな中でウンコが漏れそうになったらしい

「あれは楽しかったですね」  店主がハサミをふるいながら満足げに言う。  常連はさらに幸運なことに、そのなかの女の子と家が近く、徒歩で送っていくことになったようだ。 「まあ、俺はおっさんだし、向こうは若い子だ。そんな期待はしてないけどさ、いろいろ話しながら帰るのは楽しかったわけよ」  そんな青春時代が蘇ったみたいな帰り道を楽しむ常連、そこに悲劇が襲った。 「そうそううまい話はないよな。歩いていたらめちゃくちゃウンコしたくなったのよ」  このままでは漏れる。女の子の前で漏れる。それほどに緊急性の高いものだった。というか、第一波が来た時点で漏らすことは覚悟したらしい。あかんやつだと瞬時に悟ったらしい。  ただ、漏らすにしてもせめて彼女の目の前は避けたい。彼女を送り届けてから漏らしたい。それが精いっぱいの最終防衛ラインだった。耐えた。人生においてここまで肛門に神経を集中させたことはなかったらしい。なぜか「全集中、肛門の呼吸」というフレーズが浮かんだが、いやいや肛門は呼吸しない、と心の中で冷静につっこむ自分が少し愛おしかったらしい。  結局、彼は耐えた、耐えきった。いや、もちろん漏らしたわけだけど、彼女を送り届け、その姿が見えなくなるまで耐えきった。 「漏らしたあとに思ったわけよ。夜空を見上げて思ったわけよ。今この瞬間、世界でも50人はうんこ漏らしているんじゃないかなって。何十億人もいるんだ、50人はいるだろ。で、その50人に伝えたい気持ちで星空に呟いたんだ。メリークリスマスって」 「な、こうやってメリークリスマスで締めるといい話に聞こえるだろ」
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何言ってんだこいつという感じだった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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