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「新年の誓い」を最速で破った僕は心を鍛えるべきなのかもしれない

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いたよいたよ、押しの強そうなインストラクターが

「すいませーん、見学したいんですけどー!」  無人の受付に向かって呼びかける。真っ白な台の上には手書きのチラシがあって、「無料見学大歓迎!」と勇ましく書かれていた。ぜんぜん大歓迎されていない、と心の中で呟いた。  しばらく待つと、受付奥のドアがガチャリと開いて女性インストラクターみたいな人が大量の書類を抱えて出てきました。  「申し訳ありません、いまちょっと入会希望の方が込み合っておりまして、少々お待ちいただけますか」  見ると、受付横の休憩スペースには何組かの入会希望者がいて、書類を記入したりしていました。その対面には色黒で快活そうな男性インストラクターがついていて、満面の笑みを見せながら雄弁にジムの魅力を語り、「いやー、お客さんはダイエットなんか必要ないですよ。でも、運動することは美容にもいいですしね」とあることないことを語っていた。入会希望者もまんざらでもない様子だった。  これだよ、これ、俺が求めていたのはこれだよ。この快活そうなインストラクターの押しの強さ、これに流される感じで入会したかったんだ。  「ちょっと田中君、見学希望の方が来てるから対応お願いできるー?」  忙しそうな女性インストラクターが奥の部屋に向かって呼びかける。きたきた、ついにきた。インストラクターの人がジム内を案内してくれるようだ。きっと押しが強くて快活で明るくて、そんな人が勢いに任せてあることないこと言いまくって、僕はそれに流されて入会するんだ。

しかし僕にあてがわれたのは陰キャの田中

 「ども……」  めちゃくちゃおとなしそうな人でてきたー! 無口そうな人でてきたー!  「じゃあこちらへ……」  とんでもないことになった。まったく会話が弾みそうにない雰囲気を携えながらジム内へと案内された。 「ここがサウナです……」  ジムの案内といえば、こういったトレーニングマシンがあるだとか、こういったエクササイズプログラムがあるだとか、そういったものから入ると思うのだけど、いきなり脱衣所を駆け抜けてサウナを紹介するセンスは嫌いじゃない。マシンやプログラムよりサウナ、彼の中でどういうロジックがあるのか興味深い。  「うわあ、サウナだあ」  僕もなんとか会話が盛り上がるようにあからさまにサウナに驚いて見せる。  ここから、サウナお好きなんですか、ええ好きなんです、全国の有名サウナにいったりするんですよ、へえ、サウナって場所によって違うんですか、ぜんぜん違うんですよ温度設定や部屋の構造それに水風呂の水質だって影響します、そうなんですね俺もなんか近場でいいサウナ行こうかな、それでしたら〇〇とか〇〇とかどうですか、初心者でも比較的に行きやすいですよ、行ってみます、なんだかすいませんね僕がジムを勧める立場なのにサウナ勧められちゃって、いいんですよ良いサウナは人を幸せにしますから、そこまでいいますか(笑)いいます(笑)ワハハハハハ、こんな会話を期待したんです。サウナをとっかかりに会話が弾むのを期待したんです。
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ひたすらに会話が続かず気まずい雰囲気に……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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